ベストセラー「すごい左利き」(ダイヤモンド社)で知られる脳内科医の加藤俊徳氏。これまで1万人以上の脳画像診断を行ってきたという加藤氏には、40代のころから欠かさず行ってきた習慣がある。それが、毎朝のウオーキング。続ける理由を聞いてみた。
―脳内科の観点からみたウオーキングのメリットは何ですか?
歩く時に、人は右足、左足、右足、左足と両足を均等に使いますよね。
右足は左脳、左足は右脳のてっぺんにある運動系脳番地とつながっています。ですから、歩くことで、左右の脳に均等に刺激を与えることができるのです。
普段の生活のなかで、右利きの人は左脳、左利きの人は右脳への刺激が多くなります。さらに左利きの人は、右利き社会に適合するためにストレスがかかる時があります。
ウオーキングで左右の足をバランス良く使うことで、利き手によって生じた左右の脳への刺激の偏りをならすことができる。言うなれば、ウオーキングには「脳のひずみ」をなくす効果があるのです。脳はなるべくバランス良く使う方が、力を発揮することができますから、仕事前のウオーキングは欠かすことができません。
―どのようにウオーキングをしていますか?
仕事を始める前の約1時間、近所の川沿いや公園までのコースを決めて歩いています。
それにプラスして、アレンジ・ウオーキングをすることもあります。
これは、先ほどお話した左右の脳のてっぺんにある運動系以外の場所にある脳番地を刺激する効果があります。
例えば、決断力を鍛えたいときは「コースチェンジ・ウオーキング」。いつも歩くコースの途中で、曲がる角を意図的に変更してみるのです。些細(ささい)なことでも「自分で決めて行動する」ことで、思考に使う思考系脳番地を鍛えることができます。
それから「ターゲット・ウオーキング」もいいですね。「赤いもの」とか「数字の8」とかターゲットを決め、街の中でそれらを探しながら歩く。これは視覚系、思考系の脳番地を鍛えることができます。
毎日ただ同じように歩くだけでなく、アレンジ・ウオーキングをプラスすることで、脳を全体的に活性化させることができるのです。私の著書「最強のウオーキング脳」では、こうしたアレンジ・ウオーキングを16種類紹介しています。
―ほかの運動と比べて、ウオーキングの良い点は?
僕は今60代ですが、40代前半まではジョギングをしていました。中学・高校と陸上競技をやっていたから、運動は好きだし、続けていたんですよ。
でも、ある日、膝を痛めてしまったんです。そこでやむなくウオーキングに切り替えました。すると、あることに気付いたのです。「ウオーキングをした日の方が、ジョギングをした日よりも仕事がはかどる気がするぞ!」と。それからですね、ウオーキングに集中して取り組むようになったのは。
歩いている時は、いろいろな物を見つけたり、聞いたりしますよね。激しい運動の最中だと、そうはいきません。ウオーキングは、運動系だけでなく視覚系や聴覚系、記憶系など他の脳番地もよく刺激することができる運動なのです。
ウオーキングの良さは、運動しながらでも誰かと話すことができるという点にもあります。誰かと会話をしながら歩くことで、聴覚系・伝達系の脳番地も刺激され、コミュニケーション能力も上がるはずです。
家やオフィスにこもって仕事をしていても、かえって集中できず、はかどりません。脳は、歩けば歩くほどイキイキする仕組みがありますので、そんなときは、ぜひウオーキングをしてみてください。
加藤 俊徳(かとう・としのり) 脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。MRI脳画像診断、発達障害・ADHDの診断・治療の専門家・脳番地トレーニングの提唱者。独自開発した加藤式脳画像診断法(MRI脳相診断)を用いて、小児から超高齢者まで1万人以上を診断。薬だけに頼らない治療の一環としてウオーキングを推奨する。近刊に、アレンジ・ウオーキングを16種類紹介した「最強のウォーキング脳」(時事通信社)など。
(2022年5月21日掲載)