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お笑い通して選挙に興味を 芸人の山本期日前さん【政界Web】

2022年05月06日

 「選挙芸人」を名乗るお笑い芸人がいる。吉本興業所属の山本期日前さん(29)だ。漫才などを通して選挙の面白さを伝え、興味を持ってもらおうと劇場を中心に活動している。「選挙ウオッチ」が趣味で、暇を見つけては人口300人の島から山奥の村まで、全国各地で行われている選挙の現場に足を運ぶ。「投票に行く人を増やしたい」との思いで行動する山本さんに話を聞いた。(時事通信政治部 眞田和宏)

ネタになる政治家が少ない

 山本さんは2020年から相方の長島聡之さん(29)と「ゆかいな議事録」というコンビを結成。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している。この劇場は芸歴9年目以下の若手が舞台に上がるため、10~20代の女性客が多いという。「劇場では普段、選挙に接していない人たちにその面白さを伝えられる」と話す。

 政治家を「いじる」ネタをやることもあるが、「名前を出して伝わる政治家は5~6人しかいない」というのが悩みだ。観客に知られているのは、岸田文雄首相や麻生太郎、安倍晋三、菅義偉各氏といった首相経験者がほとんど。それ以外では自民党の河野太郎広報本部長、野党では立憲民主党の蓮舫参院議員くらいという。

 山本さんは「議員の名前が通じるかはお客さんの反応を見ていれば肌感覚で分かる。野党にも早くスターを出してほしい」と苦笑する。「野党は党名をころころ変えないでほしい。党名がお客さんに伝わらない」とも注文を付けた。

 漫才では選挙制度や時事問題を扱うことが多い。例えば、選挙事務所を訪れた有力支援者への対応の選択肢を観客に示し、選挙スタッフ役の相方がペットボトルのお茶を出せば、山本さんが「公職選挙法違反で逮捕です」とすかさず指摘。同法で飲食物の提供が原則禁止されていることなどを解説するという。「政治家の名前を出すより、制度とかを使った方が笑いが取れる」と話す。

選挙の実務経験に裏打ち

 「最初はお客さんもどこが『ボケ』ポイントか気が付かない。そこをばらしたときに笑いが起きる仕組みにしている。笑いが起きなくても知識を混ぜつつ、『へえ』となれば良い」と語る。こうしたネタは、本やインターネットなどで得た知識だけではなく、山本さんの実体験にも裏打ちされている。

 中学生時代から選挙や政治に興味を持っていた山本さんは、芸人になるために入った吉本興業の養成所の講師から「政治をネタにするなら背景をしっかり押さえなさい」とアドバイスされた。それを受け、裏側を知るためボランティアとして選挙運動に参加することを決意。17年の東京都議選を皮切りに、参院選や自治体の議員選挙で10人以上の候補者の陣営に加わり、ビラ配りや街宣車での投票呼び掛けなどに従事した。

 特定の支持政党はなく、与野党で選挙ボランティアを経験した。半年間にわたり陣営に加わったこともあり、そこは「非日常の空間だった」と振り返る。ポスターが破られるといった嫌がらせは日常茶飯事。事務所内に他陣営のスパイがいたこともあったという。

 山本さんにとって、候補者たちが社会を動かそうと、のどをからす演説会場が「パワースポット」だ。芸人の仕事やアルバイトの合間を縫って、年30~40回、全国各地の選挙の現場に足を運ぶようにもなった。

人口300人の島の選挙にも突撃

 山本さんは、さまざまな角度で選挙の面白さを伝えようとしている。インスタグラムには、現地で見つけた特徴的な選挙ポスターが無数に並ぶ。候補者や住民に突撃取材も敢行し、自身のブログやSNS、選挙情報サイト「選挙ドットコム」への寄稿などを通して発信している。

 20年1月にあった茨城県潮来市議選では、94歳で立候補した女性に出会い、「もっと政治に関心を持ってもらいたい」という若者へのメッセージを託された。同年10月には、人口300人ほどの東京都利島村で村議選があると知ると、「その島ではどんな選挙をやっているのか」と思い立ちフェリーで渡った。そこでは街頭演説や選挙ポスターを張るといった活動がなく、立候補者の名前は「口コミ」で伝わるという「衝撃的な事実」を知った。

 また街宣車の声はどこまで聞こえるのか検証。茨城県つくば市の選挙では標高877メートルの筑波山に登り、山頂でもマイクの声が聞こえていることを確かめるという企画もした。

政治家カードゲーム企画も

 そんな山本さんに同世代の若者の投票率が低い現状について聞くと、率直な答えが返ってきた。「若者が投票に行かないのは面倒くさいというのは一つある。わざわざ自分の時間を割いて世の中のために投票に行く人は果たしてどれくらいいるのか」。

 一方で、「選挙に興味を持てば投票に行く人たちはいる。そこに投票率を上げる余地がある」と強調する。山本さんたちの漫才などを見て、実際に投票に行ったという声もSNSなどで多く届くようになった。「投票所を東京ドームのロッカールームなど普段入れない場所に置いて、足を運んでも行きたいと思える仕掛けも必要ではないか」と訴える。

 政治家に興味を持ってもらうため、昨年から選挙ドットコムとコラボし、政治家のカードゲームを作る企画「永田町スピリッツ」も始めた。カードには各党の党首や幹部たちを選挙の強さや政策立案力、党内での影響力、首相を目指す野心といった観点で点数を付ける。

 永田町関係者も交えて判定会議を行ったが、主観的な要素も入ることから、点数を付けられる政治家側からクレームが出ることも。試行錯誤の最中だが、今年中にカードゲームとして遊べるようにして世に送り出すという。

 「お笑いは関心を持ってもらうためのきっかけになる」と山本さん。「政治家は受からないと本当にやりたいことができないので、最終的には票を入れてくれる人に目が向く。だからこそ、選挙に行く人を増やし、政治家が振り向く方向を増やすことが一番大事だ」と力を込める。

 「選挙という切り口で、個人で発信できるところはどんどんやってきたい」と前を向く。「売れたらもっと違うこともできるかな」。選挙芸人の今後に目が離せない。

(2022年5月6日掲載)

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