金澤美冬・おじさん専門ライフキャリアコンサルタント
私は普段「おじさん」の定年前の準備や定年後のスタート支援のため、「おじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)」を運営、50代60代のサラリーマンや元サラリーマンが情報交換し切磋琢磨(せっさたくま)する場を提供したり、研修を行ったりしています。元々三菱倉庫という「なんだか面白いおじさん」が沢山いる会社に新卒で入社したことがキッカケでおじさん研究が趣味になり、50代60代の男性をターゲットとしてその一挙一投足を見逃すまいと日夜研さん(?)を積んでまいりました。
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しかし最近、女子大学生と話をする機会があり、私が「おじさん」を応援する仕事をしていると伝えたところ、「え! なんでですか? おじさんって色々説教してきたり、過去の栄光をひけらかしたり、とにかく面倒くさくないですか?」と、心底理解できない、という顔で言われてしまいました。確かに私も大学生の時、ゼミのOBやら何やらの方の中に「そんなんじゃ社会で生きていけないよ」「組織で働くには俺のようにうんぬんかんぬん」などとお説教された覚えがあります。
さらに現在も、私が運営するおじさんLCCに入会希望される50代60代男性の中には、「同じ年代の奴らに物の道理を分からせてやる」「あなたじゃ頼りないから私が顧問になってあげましょう」などと言ってくる方もいて、そういう方が入会したら他のメンバーに迷惑がかかるので丁重にお断りしています。
たしかに「おじさん」といっても、ずーっと見ていたい、お話していたいと思わされる魅力的な方が沢山いる一方、15分ほど話すと、こちらが疲れてしまい、気持ちがドヨンと暗くなってくるような方もいます。さて、その違いはどこから来るのかと考え、今回「おじさん」を三つに分類してみました。
1、クドクド教え魔おじさん
まず最初は、「クドクド教え魔おじさん」です。教えたくてお説教したくてウズウズしており、日々チャンスをうかがっているので、このおじさんに出会う確率は高く、冒頭の女子大学生が出会ったのもこのタイプです。特徴としては、頼まれてもいないのにお説教やアドバイスを始めてしまうところ。この“頼まれてもいないのに”というところがポイントです。こういう人は「教え魔」と呼ばれており、出没場所としては職場はもちろん、スポーツジムやゴルフ場にもよく出没するようです。私もゴルフ練習場で遭遇し「そんなやり方じゃダメだ」「フォームをもっとこうした方が・・」などとコーチでもない知らないおじさんが指導してきたことがありましたが、その日は調子がよく、280ヤードほど飛ばしていたら、いつのまにかいなくなってくれていました。
こういったおじさんの心の内は、優位でいたい、自分が上で人は下、と無意識に思っていることです。だからこそ会社でも上から目線で説教したり、過去の成功談や武勇伝で若者を辟易とさせたり、若者が心の中で「昔はそれが通用する時代でよかったですね」と思っていることも気付かず話し続けます。
このタイプは、“他者変容”に焦点を当てて生きています。俺の力で人を変えてやりたい、影響力を及ぼしたいと考え、俺流を人に押し付けようとします。感謝や称賛を強要されることも多くあるため、「クドクド教え魔おじさん」と話していると、疲れさせられるのです。ただ、同じ教えるということでも、こちらから教えを請いたい「教え上手おじさん」もたくさんいて、そういうおじさんとの識別ポイントは、こちらの言うことを聴いてくれるかどうかです。一方的に話しまくるのではなく、色々聴いてくれた上でアドバイスをくれる「教え上手おじさん」は有り難い存在です。
2、ドロドロくすぶりおじさん
次にご紹介するのは「ドロドロくすぶりおじさん」です。このおじさんに関しては、自ら積極的に人に影響を与えようということはないので、あまり外で出会うことはありません。ただ、職場で1人か2人は出会ったことがあるはずです。
このタイプの特徴としては「会社のせいだ」「どうせ~だから」「世の中が悪い」と不平不満や愚痴が多く、他責傾向があることです。会社でクレームを引き起こしても「俺は悪くない」と居直り、クレームの処理を人に丸投げするような方です。こういう方は自分で再雇用を選んだはずなのに「こんなに低い給与で働かせるなんて」と、それよりも低い給与で働きクレーム処理の尻拭いをしてくれている若手のやる気を削ぐような発言をして、職場の雰囲気を悪化させてしまいます。
心の内としては、「俺はこんなもんじゃないはず、もっと評価されるべきだ」という思いがあるようです。昔はバリバリ活躍していたのに、今の時代に適応できなくてなかなかうまくいかない、とか、頑張ってきたのに報われない、などの怒りや悲しみを受け止めきれていないのかもしれません。そうさせてしまう会社の制度や仕組みに問題があるということもありますが、過去の栄光に縛られているというところは「クドクド教え魔おじさん」と共通していると言えます。
ただ「クドクド教え魔おじさん」が人に影響を与えようと他者変容に焦点を当てているのとは反対に、「ドロドロくすぶりおじさん」は人に変わってほしくないと思っています。自分と同じにみんなにもくすぶっていてほしい、自分を置いていかないでほしいと考えているからです。だからこういう「ドロドロくすぶりおじさん」と一緒にいるとズルズル足を引っ張られて暗いところに引きずり込まれるような重たい気持ちになってきます。
3、スクスク伸び盛りおじさん
ここまでお伝えしてきた二つのタイプのおじさんに共通するのは、過去の栄光に縛られていて、自分は変わる必要がない、もしくは変わるのが面倒だと思っている点です。確かに50年60年と生きていたら、知識も経験も豊富だから残りの人生は今まで蓄積したことのみでも何とかやっていけそうな気もします。でも果たしてそれでいいのでしょうか。現状維持だというのは勘違いで、退化しているということはないでしょうか。そういう意味で最後にご紹介する方々がヒントになると思います。
それが「スクスク伸び盛りおじさん」で、私の周りはこんな方が多いです。「やっちゃえOSSAN!」などと言いながら、日々何かに挑戦しています。はたから見てスクスクと成長し続けていて、育ちざかり、伸びざかりだなあ、という印象です。
特徴としては未来を見ていて、「これからのために、~の資格に挑戦しよう」「将来のために~について学びたい」など挑戦意欲や学習意欲、成長意欲があることです。自分にまずは矢印が向いていて自分がどれだけアップデートできるかという“自己変容”に焦点を当てています。いい意味で自分本位で自分のことで忙しくしているから、人に構い過ぎません。
では、なぜ自分をアップデートしようと思えるのか、「説教大好きおじさん」や「ドロドロくすぶりおじさん」との違いは何かと考えた時に、一つのポイントとして「定年をどう考えるか」が大きな鍵を握っているように思います。もし「定年=ゴール」であとは余生、老後、と考えていると、新しいことを覚えたりアップデートしたりする必要がありません。組織にいるあと数年は今まで蓄積したもので何とかやっていこう、とか何とか逃げ切れるだろう、という思考になってしまいます。でも、「定年=新たなスタート」と考えていると、「再雇用しながら、起業準備するぞ」「定年後はワーケーションしながら楽しく働くぞ」「今学んでいることを組織に属しているうちにちょっと試してみよう」と前向きに、新しいスタートを切るためにも、必然的に新たな勉強を始め挑戦をし続けるようになります。
実はこの姿こそ、後進が見たい姿です。先が見えない時代だからこそ、過去の経験にしがみつくのではなく、未来に挑戦して、時には失敗もするその過程を見せてくれることが、今の時代を一緒に生きる仲間として尊い存在です。その背中を追っていきたいと思わされるのです。冒頭に登場したおじさん嫌いの女子大学生も「過去の自慢話を話すんじゃなくて、50代60代でも挑戦している姿を見せてくれるような人がいたら、尊敬できると思う。でも私の周りには父親含めていないけれど・・・」と言っていました。
「クドクド教え魔おじさん」や「ドロドロくすぶりおじさん」も過去ではなく未来に焦点を合わせ、人ではなく自分に矢印を向けたら、自分自身がもっと楽しくなるのになあ、と思います。せっかく経験やスキルがあるのですから宝の持ち腐れにせず、定年後のためにアップデートしていってくれたら、間違いなく周りの人間や社会のためになります。そのために私ができることはないか、と考えた時に大したことは出来ないですが、今まで一生懸命働いてきたことをねぎらったり、これからのことを応援したりしたいと思っています。頼まれてもいないのに、そんなチャンスをうかがっている・・・そんな私は“ねぎらい魔”であり、“応援魔”かもしれません。50代60代の方、ねぎらい魔、応援魔にご注意ください!
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金澤 美冬(かなざわ・みふゆ)1981年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、三菱倉庫で法人・個人営業を担当。その後、JACリクルートメントで人材紹介業務、短期大学で就職支援を手掛け、2018年に独立してプロティアンを設立。「おじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)」や、「おじさんによるおじさんのためのセミナー」を運営し、定年前後のキャリア支援を行う。自他共に認める「おじさん」好きで、近著に「おじさんの定年前の準備、定年後のスタート」(総合法令出版)がある。
(2022年5月12日掲載)