日本が国連などと共催する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が8月27~28日、チュニジアで開催される。TICADはアフリカの経済発展を後押しするため、日本の主導で1993年に始まった取り組みで、四半世紀を超える歴史を誇る。ただ、ロシアのウクライナ侵攻を受け日本経済は資源高騰とインフレ圧力に直面。新型コロナウイルス禍が社会に与えた打撃も尾を引いている。こうした中でなぜ遠いアフリカへの関与を続ける必要があるのか。改めて整理してみる。(時事通信解説委員 水島信)
ロシア、「軍事」通じ浸透
TICAD8の準備会合の位置付けで約50カ国が参加した閣僚会合が3月26~27日、オンライン形式で開催され、議長を務めた林芳正外相はロシアのウクライナ侵攻について、「力による一方的な現状変更で、国際秩序の根幹を揺るがす行為」と厳しく批判。エネルギーや食糧供給への影響にも言及し、「アフリカの人々の生活を守るためにも、国際社会と一致して事態に対処していく必要がある」と呼び掛けた。
アフリカ諸国では、「援助攻勢」による中国の影響力拡大が知られるが、ロシアも独自の手法で各国への浸透を図っている。3月2日の国連総会では対ロシア非難決議が加盟国の7割強に当たる141カ国の圧倒的賛成で採択されたが、アフリカ54カ国のうち賛成は28カ国で、5割をわずかに超えるにとどまった。反対こそエリトリア1カ国のみだったが、多くが棄権や欠席となった。
国内総生産(GDP)の規模で世界11位のロシアは中国のような資金力はないものの、日本政府関係者によると、「武器輸出や軍事訓練の支援などを通じ、アフリカの幾つかの国との結び付きを強めている」。政情が不安定なマリや中央アフリカなどではロシアの存在感が増し、同国の民間軍事会社が政権中枢とも深くつながっているとされる。アフリカが購入する武器の3割はロシアから輸出されているという情報もある。
ウクライナでのロシアの国際法違反を黙認する空気が広がるようであれば、東アジアを含めて世界の安全保障環境は著しく損なわれる。日本が開発援助を通じて貧困や紛争の解消を目指すことで、国際秩序を維持する側にアフリカ諸国を取り込めるのなら、アフリカ外交には大きな意味がある。8月のTICAD8は、国連憲章や国際法の順守、主権と領土の一体性尊重をアフリカ諸国と確認する場となる見通しだ。
海外投資が未来の「食いぶち」に
日本自体の経済成長が停滞し、「失われた30年」から抜け出せずにいる中、アフリカ支援よりも国内経済のテコ入れや低所得者向けの対策が優先なのではないかという疑問もあるだろう。「日本の開発援助はアジアの途上国を支えるために行うべきで、アフリカ支援は欧州の役割」という意見も聞かれる。それでも、未来の投資先としてアフリカ諸国との関係を強化しておくことの重要性は高い。それは日本の将来の「食いぶち」の確保につながるためだ。
新型コロナ禍でブレーキがかかったものの、今世紀に入ってからのアフリカは高い経済成長を記録。19年に13億人の人口は、50年には25億人に達し、その増加ペースは2100年まで衰えないと予想されている。経済的な観点からも、アフリカは高い潜在力を有する地域と言える。
一方、国際収支構造に目を転じれば、日本は加工貿易立国というよりも、海外への投資で収益を上げ、それを国内に還流させて黒字を確保する傾向を強めている。財務省の発表によると、21年の日本の経常収支は15.4兆円の黒字。海外からの配当や利子収入などを示す第1次所得収支の黒字額が20.3兆円に上り、サービス収支などの赤字を補った結果だ。貿易収支も黒字だったが、その額は1.7兆円にすぎない。日本が生き残っていくためには海外に投資し、稼ぐことが求められるのだ。
日本の存在感希薄
現状では、日本からアフリカへの投資は低調だ。国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、19年の対アフリカ直接投資残高は、1位がオランダの670億ドルで、2位が英国の660億ドル。以下、フランス(650億ドル)、中国(440億ドル)、米国(430億ドル)と続くが、日本はトップ10にも入っていない。日本貿易振興機構(JETRO)のまとめでは、20年末の日本からの直接投資残高はわずか48億ドルにとどまっている。
19年8月に横浜市で開いたTICAD7では、安倍晋三首相(当時)が3年間で200億ドルを超える民間投資を政府として後押しすると表明したが、伸び悩んでいるのが実情だ。「量」の面で中国に対抗できない日本は、民間を巻き込んだ「質」の高い開発支援を前面に掲げてきたが、新型コロナの影響もあり、アフリカへの投資は足踏みを続ける。この状況が続けば、日本は将来のビジネスチャンスを逸することになりかねない。
8月のTICAD8で日本が重視するのは、コロナ対策を含む保健・医療体制の強化に加え、(1)デジタルトランスフォーメーション(DX)などイノベーションを通じた社会解決型ビジネス(2)グリーン経済、エネルギー転換―といった分野への民間投資の促進だ。外務省幹部は「日本の資金でアフリカのスタートアップ企業を育てるような、新しい路線を追求したい」と力を込める。
ただ、治安上のリスクや不透明な制度運用などに対する不安が民間の投資を遠ざけている面も否めない。アフリカ諸国への働き掛けを強めて投資環境を整備していくのは日本政府の役割となる。夏の参院選を乗り切れば、岸田文雄首相もチュニジア入りし、TICAD8に参加する見通しだ。日本外交の総合力が問われることになる。
(2022年4月5日掲載)