卓球の2024年パリ五輪日本代表選考レースが始まり、女子は早くも予想以上の激戦模様を呈してきた。中でも長﨑美柚(日本生命)、木原美悠(エリートアカデミー)の2人の「みゆう」が相次いで伊藤美誠(スターツ)を破るなど成長ぶりを見せ、日本女子のレベルを押し上げている。
伊藤に打ち勝った木原
4月9、10日のアジア大会(9月、中国・杭州)代表選考会。この選考会自体は五輪代表選考ポイントの対象ではないが、優勝すれば対象となるアジア大会シングルスの代表に選ばれる。 女子は8人が出場。1次リーグA組1位を懸けた試合で、木原が伊藤に4-2(12-10、8-11、7-11、11-6、11-5、11-7)で逆転勝ちして決勝へ進んだ。
第3ゲームまでは伊藤の緩急やコースの変化についていけなかったが、台の前に詰め、自分のテンポをつかんで当たりが出始めた。
「サービスからの3球目で自分から攻めることを徹底すると、チャンスができるんじゃないかと思った」という。中でも強烈なバックハンドで打ち抜く場面が目立ち、「バック対バックでも勝つことが多かった」と振り返った。
ラリーになっても、伊藤の連続攻撃をブロックなどでしのぎつつ、緩いボールは狙い打ちして、スマッシュにはカウンターを見舞った。
3月には長﨑が涙の勝利
3月5、6日のライオンカップ・トップ32では、準々決勝で長﨑が伊藤を4-2(10-12、11-3、7-11、11-9、11-7、12-10)で破っている。台上を這うような速いフォア、バックの両ハンド攻撃を連発。伊藤に変化をつける時間と空間を与えなかった。
試合後、フロアの隅で木原と抱き合って涙する長﨑の姿があった。1月の全日本選手権でチャンピオンに返り咲いたばかりのエース伊藤から挙げた念願の勝利だが、「優勝するために参加しているので、誰と当たっても勝たないと優勝できない。今自分が持っている技術に間違いないと思っているので、それを初戦から試したい」と臨んだという。
ライオンカップは代表レース最初のポイント対象大会であり、世界選手権団体戦(9~10月、中国・成都)代表選考会でもあった。長﨑は決勝で早田ひな(日本生命)に3-0から逆転負けしたが、2位のポイントを獲得し、3位の木原とともに世界選手権代表にも入った。2人は昨秋の世界選手権個人戦に出場できず、「次は絶対に出ようねと約束していた」と長﨑。
ダブルスでも実績
長﨑が19歳、木原が17歳。ともに早くからエリートアカデミーで切磋琢磨(せっさたくま)し、ダブルスも組んで19年ワールドツアー・グランドファイナル優勝などの成績を残してきた。
ノジマTリーグには初年度の18年シーズンから出場。昨年、長﨑がエリートアカデミー卒業を機に日本生命に入るまでは、一緒に木下神奈川の選手としてプレーした。
長﨑は左腕からの重いドライブが本来の主戦武器で、このところ前陣でフォア、バックを同じように速く低く打てるようになった。日本生命の村上恭和総監督は「腰痛が回復し、ケアしながらトレーニングを積んでいるので、体幹が強くなって体勢が崩れなくなった。(打球後の)戻りも早い」と話す。
木原は強力なサービスから高速スマッシュを放つ。ミートが正確でコントロールがいい。さらに伊藤戦などで見せたように、守備力とラリー力もついた。
体格とリーチが魅力
ともに身長164センチ。小柄な選手が多い日本女子のトップクラスでは早田の167センチに次ぐ。中国が「女子選手の理想」とはじき出したとされる166センチに近い。リーチの長さは魅力だ。
東京五輪後の国際試合でも木原が世界ユース選手権U19準優勝、WTT(ワールド・テーブルテニス)コンテンダー・ドーハ大会3位、同スターコンテンダー・ドーハ大会優勝。同大会では長﨑も3位になった。ダブルスでは2人のペアがコンテンダー、スターコンテンダーと続けて優勝している。
とはいえ中国の蒯曼、張瑞らには及ばず、国内でも木原はアジア大会選考会の決勝で、分が良かった平野美宇(木下グループ)に0-4で完敗。徹底してバックとミドルを突かれ、フォアを使えない展開を変えられなかった。「いつも自分が勝っていて、今回もいつも通りしようと思ったけど、相手が攻略してきて、そのまま崩れてしまった」と話すあたりに若さがのぞく。
長﨑もライオンカップ決勝で早田を追い込み、その後も互角に戦いながら、あと1ゲームを取れなかった。
伊藤も次の対戦では考えてくる。まだ課題の多い2人の「みゆう」だが、選考レースのスタートから成長ぶりを見せたことで、石川佳純(全農)から張本美和(木下アカデミー)まで層が厚くて戦型も多彩な日本女子の競争は、ますます熱くなりそうだ。
【世界選手権団体戦日本代表】 ▽男子 戸上隼輔(明大)、張本智和(IMG)、丹羽孝希(スヴェンソン)、及川瑞基(木下グループ)、横谷晟(愛知工大)
▽女子 伊藤、早田、長﨑、木原、佐藤瞳(ミキハウス)
【アジア大会日本代表】(○印はシングルス出場。ダブルス種目の出場者は強化本部が決定)
▽男子 張本○、吉村真晴(愛知ダイハツ)○、戸上、及川、松下大星(クローバー歯科カスピッズ)
▽女子 早田○、平野○、木原、伊藤、佐藤
(いずれも内定)
(時事通信社 若林哲治)(2022.4.14)