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「舞台」にふさわしい白熱の船出 ソフトJDリーグ開幕

2022年03月29日20時54分

 女子ソフトボールのニトリJDリーグが28日、開幕した。千葉・ZOZOマリンスタジアムを使った月曜のナイター。幕開けを飾る企画やイベント。課題山積を承知で踏み出した新リーグ創設だが、ビックカメラ高崎とトヨタの開幕戦は、両チームが船出の責任をしっかり果たし、「しつらえ」を超えた白熱戦だった。

 プロ野球感覚の「しつらえ」に映えたプレー

 ここでファンがソフトボールを見るのは、2018年世界選手権の決勝以来だ。あの時は1万2000人の観客が日本と米国の延長10回の死闘にかたずをのんだ。

 この日も、熱心なファンにはまた違う期待があっただろう。試合前には観客の親子キャッチボール、元日本代表監督・宇津木妙子さんの「ドリームノック」など企画が続き、今週末に開幕を迎える他の14チーム代表選手、過去の五輪代表選手も応援に駆けつけた。

 トヨタの主将・鎌田優希は「新リーグの開幕戦ができるのは私たちとビックカメラだけなので、全員がワクワクして臨んだ」という。

 いつもより両チーム応援団の音量が大きい。開幕を祝う花火も上がった。

 そんなグラウンドで、4年前の世界一決戦とは違う国内リーグの試合が、どんなふうに見えるだろうと思ったが、その「しつらえ」を十分に超えるものだった。ネット裏スタンドの記者席から見渡す全景に、プレーが映えていた。

 攻めた後藤、応えた4番下山

 先発投手はビックカメラ高崎が昨季の最優秀防御率投手・濱村ゆかり、トヨタは東京五輪のシンデレラガールで昨季最多勝、MVPの後藤希友。予想通りだった。

 濱村はいつもと違う試合前に戸惑ったのか、制球が微妙にずれて四球の走者を背負ったが、要所を慎重に締めて得点を許さない。

 後藤は持ち味通り、気迫の込もった速球を投げ込む。受ける切石結女も、今年初めて日本代表に選ばれた若手捕手らしく、動く速球を内角へぐいぐい投げさせた。

 0-0で延長戦かと思われた七回に、決着が訪れた。トヨタが新外国人バッバ・ニクルスの二塁打を足場に2死三塁とし、4番下山絵理が内角寄りの球を詰まりながら振り抜く。打球は二塁手の頭を越え、待望の1点をもぎ取った。

 この2季、相次ぐ主力打者の引退と移籍で戦い方が変わったトヨタ。下山はその開幕4番に起用され、「緊張もあったし、ビックには昨年悔しい思いもしたけど、今年は今年なので自分が決めるという強い気持ちで入った」という。責任を果たし、JDリーグで毎試合選ばれるMWP(MOST WOW PLAYER)第1号にもなった。

 投げ切った濱村、見守った上野

 投げては後藤から五回を若手の三輪さくら、そして六、七回をモニカ・アボットとつないで相手打線を2安打1四球に封じた。リードした切石は「打線がチャンスに点を取れない中で、後藤が相手に流れが行かないように踏ん張ってくれた」という。

 トヨタナインは優勝したような騒ぎ。後藤らの目には涙もあった。「(三回1死)二、三塁で駄目かと思いかけたけど、前を見たら切石さんが『来い!』という顔をしていたので、思い切って投げられた」

 ビックカメラ高崎は、濱村が150球を投げて完投した。前回の完投は本人も覚えていないほど。特に昨季の五輪後は、濱村と上野由岐子のリレーが定着していたが、この日は上野に投げる気配がなく、終始ベンチで戦況を見つめた。

 上野の登板を見たかった観客もいたはずだが、チームの事情や戦略を別にしても、記念すべき日に上野を頼らず、最後まで白熱戦を展開したことは、一つの意味を持つだろう。

 ともに光った「攻めの守り」

 試合を通して、どちらも守備が堅かった。トヨタの遊撃手・石川恭子がさばいたゴロは8本。入団後の3季は外野が多かったが、東京五輪代表の渥美万奈が引退し、今季は園田学園女大時代のポジションで開幕を迎えた。「人工芝で打球が速かったりバウンドが多かったりするのを、石川がよく動いてアウトを取ってくれた」と馬場幸子監督。

 ビックカメラ高崎は、四回無死一塁で一塁手の内藤実穂が送りバントを素早く処理してピシャリと二封した。次打者の右前打を捕った藤本麗は、二塁へもう少しで右ゴロ封殺の送球。炭谷遥香とトヨタ・亀田栞里の両三塁手も、ピンチに落ち着いたプレーを見せた。

 どのプレーも派手さはない。簡単なようにも見える。実際、このクラスなら当たり前かもしれないが、ちゅうちょのない「攻めの守り」で開幕戦をもり立てた。

 土台の上に新たな挑戦

 ただ、両チーム計7安打、1得点のこの試合を「いい試合だった」と言える人は、ソフトボールを見慣れた人だろう。長丁場では粗い試合もある。得点が入らないと物足りない人もいる。個人の魅力とプレーを見に来てもらえる選手や、グラウンド外の楽しみ創出など、観客のモチベーションを高めなければならない。新しい時代に新しいファンを獲得する挑戦は、始まったところだ。

 ビックカメラ高崎の藤田倭は、月曜ナイターの試みについて「仕事が終わってからプロ野球を見に来る感覚で来ていただけたら。この熱が続いていけばいいなと思う」と話した。

 この日は国歌斉唱も元豊田自動織機選手の阿南恵子さん、河澄星菜さんが行った。島田利正チェアマンは「JDリーグは元選手を含めて選手が宝物。オリンピアンも大勢来ていただいて、JDリーグらしさが出てよかった」とOGたちにも感謝する一方で、「こうしたら良かった、ああしたら良かったというのは多々あるし、それがないといけない」と今後をにらんだ。

 観客数6502人についても「もっと貪欲にいけたんじゃないかというところもある」と反省を口にしたが、船出に際して両チームが見せた試合は、土台となるこの競技の魅力を再確認させてくれた。動画のライブ配信視聴者が20万人を超えたこともまた、今後への土台となりそうだ。

 ■ニトリJDリーグ JDは「ジャパン・ダイヤモンド」の略。野球と同じダイヤモンドでプレーすることとダイヤモンドの輝きを表す。昨季までの日本リーグ1部12チームに2部から加わった4チームの計16チームで構成。10月まで東西2地区に分かれたリーグ戦と交流戦から成るレギュラーシーズン計232試合(1チーム29試合)を行って地区優勝を決める。うち10試合は月曜ナイターで開催。11月には計7チームによるポストシーズンのトーナメントを行って日本一を決める。

(時事通信社 若林哲治)(2022.3.29)

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