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大シラス、大アジ、大ダイ…大き過ぎて「残念な魚」が人気になった理由【大漁!水産部長の魚トピックス】

 メジマグロより本マグロ、イナダ、ワラサよりもブリといったように、大きく丸々と太った魚の方が、脂の乗りが良くおいしいと言われる。しかし、中には大き過ぎると不人気な魚もある。大シラスや大アジ、大ダイなどだ。近年、こうした「残念な魚」の活用が進んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要などを背景に、新商品として提供され、人気を呼んでいる。(時事通信水産部長 川本大吾)

大シラスの存在感を弁当やパスタで

 イワシなどの稚魚であるシラスは、シラス干しや釜揚げシラスなどの原料。1~2センチまでのサイズが主流で、3センチくらいまで大きくなると大半が「規格外」となり、スーパーなどの店頭に並ぶことは少なくなる。東京・豊洲市場(江東区)の卸会社によると、こうした大型のシラスは「大口の需要が少ないため、主力サイズに比べて相場は半値くらいになってしまう」という。

 静岡県などのシラス産地では、全体の2割程度は大型シラスだといい、その有効利用策を模索していた。佃煮などの保存食として加工する手もあるが、水産アドバイザーの小谷一彦氏は「希少性を十分にアピールし、新たな価値を見いだせないか」と考え、加工業者や食品スーパーと連携し、新商品の開発を進めた。

 大きなシラスは「食べ応えがあってうま味も十分」(産地関係者)。昨年、ご飯の上に梅と一緒に乗せて、だしをかけた弁当を販売し、好評だったという。今年も他の大手スーパーなどから大シラスを使った弁当などのオファーがあるといい、次第に需要が伸びている。

 さらに、大シラスを野菜と一緒にパスタに乗せ、和風パスタとしてメニュー化した飲食チェーンもあり、今後も利用が進みそうだ。小谷氏は、規格外の魚に新たな価値を与え、付加価値を付けるのは、持続可能な開発目標(SDGs)の視点からも重要」と話している。

大アジの干物、調理やごみ処理にもメリット

 アジも大き過ぎると敬遠される傾向がある。丸焼きや開きなどで需要があるのは、1匹200グラム前後の中型。極端に小さければ南蛮漬けや唐揚げになるが、「300グラム以上の大型は、比較的脂が少なく人気が落ちる」(豊洲の卸)という。

 アジの開きも、大き過ぎると焼きにくく、皿にも盛りづらいが、静岡県沼津市の加工業者「五十嵐水産」は、大型のアジを使った干物づくりに成功した。韓国産の1匹300グラムほどの大アジを原料に、頭や尾、ひれ、中骨などを取り除いて半身にした商品「令和の干物」を2年前に発売した。

 同社では、内臓を取って開きにした魚を利用するが、半身にしたことで、通常の開きよりもグリルやフライパンで一度にたくさん焼けるようになった。

 さらに、大半が可食部でごみがほとんど出ないメリットもあり、コロナ禍で順調な売れ行きとなっている。五十嵐水産は「加工の際の手間は掛かるが、消費者目線でこうした商品を手掛けることで、少しでもアジの干物の消費を高めていきたい」と意気込んでいる。

大ダイもコハダの成魚も不人気

 魚の王様タイも、大相撲の横綱が優勝したときに高々と掲げるには大きい方が良いが、刺し身やすしネタなどに使うには1~2.5キロほどが好まれる。かなり小さなものは、姿焼きにして披露宴の席などで提供されるケースがあるが、「3キロ以上の大ダイは、少々扱いにくい」と豊洲の仲卸。

 大き過ぎるタイは、アジなどと同様「大味」という言葉で表現する魚のプロが多く、「うま味が少ない」(豊洲の仲卸)という声もある。加えて「大きいと特に尻尾に近い部分に繊維が多く、刺し身に向かない」(都内のすし店)との指摘もある。

 こうした大ダイのマイナス面を補うため、東京都千代田区のすし店ではサンショウの葉を使った「木の芽焼き」や、ソラマメのみそだれ焼きなどで提供したことがあるという。ともに「焼くことで、タイのうま味が増しておいしくなる」とPRする。

 江戸前のすしネタで知られるコハダの成魚で、体長15センチ以上のコノシロという魚も、小型に比べ人気が落ちる。コハダよりさらに小さいシンコは、魚市場では1キロ当たり数万円の値が付くこともある。それよりも少し大きなコハダも、高級魚のレベル。ところが、コノシロは流通量が少ないにもかかわらず、豊洲でキロ数百円と大衆魚並みだ。

 刺し身にもできるが「比較的身や皮が硬いため調理しにくい」(都内すし店)ため、焼いたり揚げたり、工夫を凝らしながら提供しているという。

(2022年3月21日掲載)

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