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PTA入るか入らないか、それが問題だ!

2022年03月05日15時00分

 もうすぐ4月。子どもや保護者は学校への入学に期待を胸を膨らませていると同時に、ちょっぴり不安も抱えているはず。そんな不安の一つがPTA問題。子どもが通学する間、何度か役員などになることが義務付けられているケースも少なくなく、保護者にとって小さくない負担だ。今、PTAはどんな状況にあるのか、そして保護者はどう向き合っていくべきなのか―「さよなら、理不尽PTA! 強制をやめる! PTA改革の手引き」(辰巳出版)の著者で、長くPTAを取材、体験もしてきたジャーナリストの大塚玲子さんに寄稿してもらった。

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 ここ数年、新聞やテレビなど多くのメディアでPTAの問題が取り上げられてきました。

 PTAの強制をナシにしたい。加入方法から会費の徴収、活動まで、本人の意思を尊重せずに決めてしまう、これまでのやり方を改められたら―。ライターである筆者も、PTAのことで苦しむ人がいなくなることを願って、組織を改革・改善した会長さんや役員さん、校長先生、そして退会・非加入を選んだ保護者、一般会員として声をあげた保護者などを取材し、PTAを変えるための情報を伝えてきました。

PTAは変わったか?

 そんな筆者の元に時事通信の記者さんから、お尋ねが。「これまでにPTAは改善されてきたのかどうか?」というのです。どうなのでしょうか、しばし考え込みました。

 ざっくりと言えば、二極化している面があるのではないかと思います。改善されたPTAもいっぱいある一方で、変わらないPTAもたくさんある。ちゃんとした調査がないので、どちらが多いか正確なところは誰にも分かりません。ただ、どちらも本当に多いよね、というのが率直な印象です。

 いま、変わるPTAは、どんどん変わっています。以前は子どもが学校に入ると、保護者は自動的にPTAの会員として扱われていたところ、ちゃんと加入届を配って、加入するか否か本人の意思を確認するように。活動についても、これまでは「委員を1クラスから必ず何人出す」という形で、やりたくない人にまで活動を強いていたところ、「自分で希望した人が活動する」というやり方に移行。教育委員会や地域が主催する事業への協力要請も、参加希望者がいないときは無理をせず、断るように。

 そんな合理的なPTAは、私が取材を始めた9年前の時点ではとてもレアな存在でしたが、いまは違います。「改革しました」「いま改革を進めている」「改革に向けて話し合い中です」といった話は数えきれないほど聞こえてきます。ここ2、3年は、数ある改革事例からどれを取材すべきか、選ぶのが難しいとさえ感じるようになりました。

 最近は、改革からさらに一歩進んだ例も見かけます。「無料会員の枠をつくった」「会費をゼロにした」「学校(校長)と保護者の話し合いの場を定期的に設けた」「PTAという名前をやめて、新しい名称にした」「加入率を気にしないことにした」等々、新しい試みをするPTA、あるいはそれに似た組織が、ちらほら出てきています。

 改革とまではいかないものの、メールシステムやLINEなど、デジタルツールを導入して連絡方法をアップデートする事例や、これまでの活動を見直して事業や組織のスリム化を図る事例は、さらにたくさんあります。

 PTAに入らず非会員になる人も、徐々に増えてきました。以前は「入りません」「退会する」と告げると、「そんなことはできない」などと却下されるのが定番でしたが、最近はPTAの加入が実は任意であることが知られるようになり、非会員になるハードルも以前よりだいぶ下がってきたようです。

相変わらずのPTAも

 かといって、「改善したPTAが多数派」とまでも言えないように思うのです。全国には小中学校だけで3万ものPTAがあります。「うちのPTAは全然変わる気配がありません!」といった声も、それなりにたくさん聞こえてきます。

 母親たちは昔と変わらない悩みを訴えています。「入会届は配られず、いつの間にか会員になり、くじで役員に当たった」「『入学と同時にPTA会員になる』と書かれた冊子を配られた」「『毎年必ず何らかの係をやる』という決まりがあり、やらないときは『免除の理由』を書面で提出し、みんなの前で理由を公表させられる」等々。

 PTAを変えようとして周囲の反対で“撃沈”する保護者は昔からいましたが、最近は改革にトライする保護者が増えたのに比例して、撃沈数も増しているようです。「免除の理由の発表会をやめようと提案したが、『理由もなくやらない人はズルい』という人が多く却下された」「メールシステムの導入を校長に拒否された」「会長になりPTA改革を試みたが、他の役員や元役員らから『余計なことをするな』と白い目で見られている」等々。

 PTA改革のチャンスすら持てない保護者もよくいます。本部役員はタテマエ上、立候補を募っていることが多いのですが、実際には誰かが立候補しても、現役の役員さんなどから裏で却下されてしまうことが非常に多いのです。筆者もその一人で、何度か名乗りを上げたものの一度もかなわず。「PTAを変えたい」などという保護者は、現場で最も警戒されるところがあります。

 一方、退会しようとしたら「子どもに不利益がある」と告げられたという話も、昔よりは減ったものの、まだ聞こえてきます。学校という公共施設を使う団体が非会員家庭の子どもを除外し、会員家庭の子どものみを対象に活動するのは間違ったことですが、これまでの「全員強制加入のPTA」から方向転換できない人も、まだそれなりに多いのです。「子どもがPTAのお祭りに参加できなくなるが、よいかと聞かれた」「副校長から『非会員の子どもには入学記念品を渡せない。渡すなら実費を払え』と電話がかかってきた」「PTAに入らないなら、子どもは登校班から外れてもらうと言われた」等々。「それはおかしい」と声を上げる保護者もいますが、退会を諦めてしまう人も少なくありません。

 そんな話を聞いていると、やはりまだ「PTAは改善された」とまでは言いづらいような。「改善されたPTAもあるし、改善がないPTAある」という、ボヤンとしたことしか言えないのでした。

自分の気持ちや選択を最優先に

 そんな状況の中、今年もまた春が近づいてきました。新入生の保護者にとってはPTAデビューの季節、在校生の保護者にとってはクラス役員(委員)決めの季節です。「PTA、4月からはどうしようかな」と考え中の方も多いことでしょう。

 筆者からお伝えしたいのは、どうかできるだけ「自分で決めてほしい」ということです。PTAに入るか、入らないか。加入を続けるか、続けないか。PTAに入るとしたら、活動をするのかしないのか。活動する場合は、どのくらいの活動量(役職)まで引き受けるのか。

 もしかしたら、思ったほど選択肢はないかもしれません。たとえば「活動はしたくないけれど、加入だけしたい」という場合。改革が進んだPTAなら「加入だけでいいですよ」と言ってくれるでしょうが、そうでないPTAだと「全員必ず活動してもらう」と言われ、加入も活動も両方強いられるかもしれず。それでも、可能な範囲で、自分で決めてほしいのです。「活動を強制されるなら加入しない」のか。あるいは「非加入は気が引けるから、加入して、活動する」のか。

 「入らない」と伝えたら、子どもへの不利益を告げられることもあるかもしれません。そんなときも、ただ諦めるのでなく、「おかしいと思います」と一言伝えてもらえたら。

 要は「仕方なく入って、仕方なく活動する」ということを、できるだけしないでほしいのです。もしみんなが「自分で決めた」という実感をもってPTAに入ったり、入らなかったりしていれば、「やらない人、ズルい」とは思わないでしょう。そうしたら他の人に対し「無理にでもやらせねば」と思う人もいなくなり、PTAで泣く人をなくせるはずです。

 まずは自分の気持ちや選択を、大事にしてもらえないでしょうか。そうしたら、他の人のそれも、大事にできるようになると思うからです。

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大塚 玲子(おおつか・れいこ)=千葉県出身。東京女子大学卒業後、編集プロダクションや出版社を経てフリーに。「PTA(保護者と家族)」、「いろんな形の家族」などをテーマに取材や講演活動などを行っている。多様な家族の在り方が受け入れられる社会を目指す団体「定形外かぞく」代表も務める。

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