日本で女性国会議員が初めて誕生したのは1946年の第22回衆院議員総選挙。定数の8.4%を占める39人の女性議員が誕生した。現在、女性が占める割合は14.3%(衆院9.7%。参院23.0%)で、女性の政治進出があまり進んでいない。「世界経済フォーラム」が公表するジェンダーギャップ指数でも、政治分野では156カ国中147位(2021年)と最低水準だった。
フランスも日本とそう状況は変わらなかったが、2000年に男女同数50%ずつの候補者擁立を義務付ける「パリテ法」が制定され女性進出が進んだ。日本でも女性議員らの尽力で、国政選挙などで男女の候補者ができる限り均等となることを基本原則とする法律が18年に施行。さらに政府は、国政選挙の女性候補比率を25年までに35%とする努力目標を盛り込んだ基本計画をまとめている。なぜ、女性議員は増えないのか―。女性議員の養成を目指し、これまでに8人の当選者を輩出した「パリテ・アカデミー」の共同代表でジェンダーと政治学を専門とする三浦まり上智大教授に聞いた。(時事通信政治部 川上真央)
「壁」は選挙制度
―初めて女性議員が誕生してから70年以上たつ。女性議員が増えない理由は何か。
選挙制度だ。(当時は)大選挙区制と戦後の女性解放の流れの中で、(政治分野に)出ようという女性たちがいた。(現行の)選挙制度は党利党略で、どの制度だと誰にとって有利・不利というのがはっきりしており改革が難しい。
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律ができたにもかかわらず、昨年の衆院選では女性議員数が減ったことは教訓だ。日本は現職優先の仕組みが強すぎる。閉ざされた世界で公認権を政党が独占しており、民主的ではないことが最大の問題だ。ここを変えなければ、女性は増えないし、女性だけではなく多様性が確保されない。
「クオータ制」試行錯誤を
政治分野の男女格差是正のため、選挙の候補者や議席の一定割合について性別を基準に振り分ける制度として「クオータ制」がある。約130の国・地域が採用しているが、日本では法制化が進んでいない。
―どのような形で「クオータ制」を導入すればよいか。
政党が自主的にクオータ制をやることは今すぐできるので、ぜひやってほしい。市民社会からのプレッシャーがない限り、政党が変わらないのはどの国も一緒だ。女性運動が一番重要で、社会として支援することで(運動を)大きくしていくことが不可欠だ。まず中道左派政党から始まり、選挙で勝てるとなると保守政党も変わる。日本は野党が弱いので、政権交代のダイナミズムの流れがない。社会党の土井たか子氏がマドンナ旋風を吹かしたことによって、90年代は自民党も女性を増やすという流れが確実にあった。その流れがまた出ないと変わりにくい。
もう一つは、法律で(クオータ制を)義務付けることだ。日本と選挙制度が近い台湾や韓国などでやっているので、その形で導入することがふさわしいと思う。
―出馬に当たり資金面での課題もある。
供託金は下げないといけない。そうすれば、政党はもっと名簿に女性を掲載できるようになり、当選しそうにない女性も名簿に載る。
ほかの国も全く同じで、見た目だけやる。そんなやり方は制度の趣旨と違うと社会が怒って、順位に規則を設けようと何度も何度も制度を改正して、良くなった歴史がある。日本も(クオータ制を導入すると)同じようなことが起きると思う。何かをやればそれをかいくぐるように、形だけのことをやり、それじゃだめだと、また変えていく。それを10年くらい繰り返していくことによって、より良い制度になってくる。日本はやっとそのスタートラインには立ったと思う。
ほかの国は具体的な制度を変えて、女性を支援している。日本は一切何もやっていない。これだけ制度が不利で支援もしなければ、増えないのは当然だ。
まずは3割
―女性が活躍している分野は限られているのではないか。
重要な安全保障や金融など国の方針に関わるところは、男性ががっちり占めるというのはよくある話だ。金融や国際関係の知識が豊富で、いろいろな場面で活躍している女性はいる。その専門性を生かすべきだ。ありとあらゆる政策にジェンダーの視点を横串で刺していく必要がある。女性議員が3割を超えたら、(個人の)専門性に合わせて、もっと活躍できると思うが、女性議員数が3割以上にならないと数で負けてしまう。
―なぜ3割なのか。
ある一定を超えないと悪目立ちしてしまう。過度に女性であることが強調されると同時に、過度に男性に合わせなければならない。そこから少しでも外れると、「やっぱり女性だからだめだ」となり、無理をすることになる。しかし、女性の割合が3割を超えると、「女性だから」というものが当てはまらない。党派に関係なく、女性がその場にいるということが重要だ。
「気付いていないのは永田町だけ」
―有権者の意識も変化しているのではないか。
ジェンダーに対する関心が強まっている。日本がジェンダーで遅れていることは、かつてはあまり知られていなかったが、今はみんなが知っている事実。社会の覚醒は確実に進んだ。気付いていないのは永田町だけ。そこを変えるためには、高まってきたパワーをどう政治に結び付けるかだ。
次世代に希望を
―女性リーダーの誕生には何が必要か。
たまたますごくラッキーで、条件に恵まれた女性リーダーがときどきは誕生するかもしれないが、今までの流れに取り込まれて、大きな変革は生み出さないで終わってしまう。せっかくチャンスが訪れたのであれば、女性が次の世代の女性にとってどれだけ道を広げたかで評価していかなければならない。求められるミッションは、1ミリでも2ミリでも次の世代の女性たちにどれだけ道を広げるかということ。そういう観点から女性リーダーを評価していくことが必要だ。
―次の参院選をどう見ているか。
次の参院選は重要だ。衆院選までは機運が高まっていたのに、女性議員が減ったことで機運がしぼんだ。この後、参院選までにどこまで盛り返していけるかだ。参院選の結果で機運が盛り上がれば、(女性は)出ようとなると思う。
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(2022年2月25日掲載)