師走直前に無報告が横行
「黒いダイヤ」とも呼ばれるクロマグロで、日本一の「上もの」と言われる青森県大間産。東京・豊洲市場(江東区)では、初競りで3億円超の高値が付いたこともあるなど唯一無二のブランドを築き上げてきた。しかし、漁獲データの無報告が大量に発覚。評価が覆されかねない事態が表面化し、市場関係者などの間で混乱が広がっている。(時事通信水産部長 川本大吾)
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高級すしネタとして知られるクロマグロは、かつて大半が日本で消費されていたが、今では国際商材。健康志向や和食ブームに乗って、欧米や中国でも需要が伸びている。中でも大間のマグロは別格。仲卸を通じて中国へ渡り、香港のすし店で提供されたりしたことも話題となった。
海外での消費も堅調な中で、マグロの資源管理には厳しい目が注がれている。国際会議で関係国が話し合いながら、漁獲枠を設定し各国に配分。持続的利用を図っている。近年は太平洋上のマグロ管理が功を奏し、漁獲枠の拡大が決まっている。内外で高まる需要を支えるには、今後も資源を絶やさぬよう、きちんと管理しながら漁獲することが必要だ。
そんな中、マグロの需要が最盛期となる師走を直前に控えた2021年秋、大間で1カ月間、「100キロもの」に換算すれば少なくとも100本以上となるマグロが、地元の漁業協同組合に報告されずに水揚げ・出荷されていたことが分かった。
マグロは国際管理の下で日本の漁獲枠が設定され、都道府県別に漁獲可能量(TAC)を配分。その範囲内で操業することになっている。漁業者がマグロ漁獲のデータを隠せば、資源管理策の効果が薄れてしまう。
無報告「相当な数」
水産庁によると、青森県に配分されているマグロの今漁期年(2021年4月~22年3月)の大型魚(30キロ以上)漁獲枠は、合計543トン。このうち県は、大間漁協に半分近い253トンを配分している。
「無報告」の水揚げ分がどれくらいに上るのか、はっきりとは分からないが、政府関係者は「相当な数に上るのでは」との見方を示す。現行の漁業法では、漁獲データについて「報告をせず、または虚偽の報告をした者」に関して、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すことにしているが、県によると、今年1月末時点で大間の漁業者への適用例はない。
大間漁協から毎月、水揚げデータを得ている県は「関係法令に基づき正確な漁獲報告を行うよう、漁協に対し指導していく」(水産振興課)と話すが、無報告が横行しているとなれば、どこまで実態に即したデータが得られているのか疑問だ。
豊洲業者ら「ブランドに傷」「徹底管理を」
資源管理の「要」ともいえる漁獲管理に不十分な点があることに対し、豊洲市場の仲卸やすし店の関係者から厳しい声が上がっている。マグロ専門の仲卸は「築地時代から卸やわれわれ仲卸、仕入れに来るすし店などの関係者が目利きの上、最高のマグロとして評価してきたのが大間産。今後もそのブランド力を継続させるため、漁獲データはきちんと報告、管理してほしい」と指摘する。
別の仲卸は「市場ではマグロの質だけを見て評価するため、水揚げ情報のことは分からない。ただ、世界的に環境問題が重視される中、漁獲の実態をうやむやにしていては、ブランドにも傷が付く。もはや産地だけの問題ではない」と表情を曇らせる。
大間マグロを長年扱ってきた「おけいすし」(東京都渋谷区)の店主は「特に冬場の大間産は極上品。最高のマグロを取っているのだから(漁獲)情報も隠さず、堂々と出荷してほしい」と話す。
漁獲情報の管理問題が指摘される中で「この際、産地サイドで資源管理の必要性を共有し、改めて管理を徹底して、大間ブランドの維持へ再出発を図ってほしい」(豊洲市場関係者)と期待する声もある。