渋野日向子、いざ米ツアー さらなる高みへ飽くなき挑戦の2022年

2022年01月05日16時00分

はらはらドキドキ「しぶこ劇場」

 女子ゴルフの渋野日向子(23)が2022年、米ツアーを主戦場に新たな挑戦を始める。21年12月の第1週、第2週に米アラバマ州で行われた最終予選会(Qシリーズ)を通過した。2会場で4ラウンドずつ、計8ラウンドの長丁場。渋野は通算10アンダーで20位に入り、45位以内に与えられるツアー出場権を得た。波乱に満ちた展開ながらも、より多くの試合に出場するための目安となる「20位以内」を確保した。

 それより1年前、20年12月の全米女子オープン。単独首位スタートの最終ラウンドで後退して4位にとどまった。悔し涙をこらえて、「絶対にまた、ここ(米国)でプレーする」と心に誓う。本場で戦い抜くことを念頭に、スイング改造に取り組み、ウエッジ4本を使うクラブセッティングに改めた。それらが徐々に形となり、結果につながってきた。さらなる高みを目指し、いざ米ツアー。「めちゃくちゃ楽しみです」。トレードマークの笑顔がはじけた。(時事通信ゴルフ取材班)

◇ ◇ ◇

 最終予選会の第1ラウンドで81位とつまずき、「は? みたいな感じ」。第2ラウンドも72位で「まだ下? みたいな。苦しい気持ちではあったけど、ガツガツいくしかないと思った」。めげずに盛り返し、第3ラウンドで六つ伸ばして25位まで上がった。第4ラウンドは24位。会場を移動した2週目は第5、第6ラウンドとも好スコアを出し、7位まで上昇した。「とりあえず、よかった。もう、ほんまによかった」

 ところが、翌日の第7ラウンドで暗転し、79(パー72)の大たたき。スコアを七つも落とし、29位に急降下してしまった。ターゲットは20位以内。悠々の安全圏から一転、まさかの黄信号がともった。ラウンド後、報道陣への対応はなかった。きつい心理状態なのは察して余りある。残り1日。同じように崩れてしまったら…。そんなマイナス思考が脳裏をよぎっても不思議ではない。

 最終ラウンド。出だしボギーでも何とか踏ん張り、8番からバーディーを重ねていった。5バーディー、2ボギーの69。20位タイとなり、目指していたラインにギリギリで滑り込んだ。渋野は前日の心境について、こう語った。「悔しくて、最終日を迎えるのがすごく怖かった。あすは取り返すぞ、と思えないくらいの状態だった」。一夜明けて前向きな気持ちを取り戻し、奮起した。

「収穫しかない」Qシリーズ

 2週に及んだ最終予選会。「初めの方は一つのミスに対して、そんなに気にしなくていいかな、と考えながら回っていた。でも、日に日にプレッシャーと闘って、追い詰められてというか、自分で追い詰めてという感じだった。伸び伸びできる環境ではなかったけど、自分らしいゴルフができた日もあれば、全てさらけ出してしまった日もあった。自分の成長した部分も見られたり、まだまだだな、と思う場面もあったり。なんか、忙しかった」。山あり谷ありの8ラウンドを、そう振り返った。

 19年夏に海外メジャー初挑戦だったAIG全英女子オープンで優勝。その際、米ツアーのメンバー登録が可能だったが、当時は「こっち(米ツアー)に来たいという気持ちはあまりなかった」と見送った。「このQシリーズの8ラウンドは、あの時メンバーシップ登録していたら経験できないことで、こんなに自分を追い込むことはなかった。これほどスイングを変えていなかったかもしれない。そう考えると、自分で変われる時間ができたと思うし、今回こうして2週間やって、ボロボロになり、足りないものがたくさん見えた。収穫しかないかな、と思う」

大丈夫か…でもワクワク

 それにしても、まるでジェットコースターのよう。80位台、70位台の序盤から、反転攻勢で一桁順位へ。これで安泰かと思えば、残っていた選手の中でワーストの「79」。後がない最終日、何とか目標ラインに届いた。それも18位、19位などではなく、ちょうど20位。やれやれ、…だ。


 はらはらドキドキの「しぶこ劇場」。最終予選会には、日本ツアーで賞金ランキング2位の古江彩佳(21)も参戦し、持ち前の安定感で通算18アンダーの7位。渋野も第6ラウンドまでの流れからすれば、古江と同等の位置ですんなりと通過しただろう。けれども、本人の意識にかかわらずドラマチックな結果となるところが、渋野らしい。大丈夫だろうか、と思わせつつ、ワクワクさせる。持って生まれたものなのか。

意義ある2年ぶり勝利

 21年10月。第1週のスタンレー・レディースで日本ツアー2年ぶりの5勝目を挙げ、第4週の樋口久子・三菱電機レディースでも優勝。ともにプレーオフを制した。それぞれ劇的な、そして渋野自身にとって意義のある勝利だった。

 まずスタンレー。5位で出た最終日、当時アマチュアで茨城・明秀日立高3年の佐藤心結(みゆ)、木村彩子、ペ・ソンウ(韓国)と通算10アンダーでトップに並んだ。18番(536ヤード、パー5)を繰り返したプレーオフは、1ホール目に木村が脱落。2ホール目で渋野がただ一人バーディーを奪い、決着をつけた。

 もう少し詳しく経過をたどる。正規の18番。残り95ヤードの第3打を52度のウエッジでピンそば1メートル強につけ、バーディーで首位タイに。プレーオフ1ホール目は、同様に88ヤードから54度で「イーグルか」と思わせたピン20センチへのスーパーショットを見せた。2ホール目。今度は108ヤードから46度を振り抜いて1.5メートルへ。先に沈めてバーディーとし、待機した。佐藤は第3打を「ピンの少し奥からバックスピンをかけるつもりで、完璧に打てた」。だが、想定外のピン直撃でボールが大きくはねてしまい、バーディーはならなかった。ペ・ソンウも2メートルのバーディーパットが入らず、渋野の優勝が決まった。

はまったウエッジ使い分け

 いったん正規の11番(パー5)に戻ると、ここでは残り60ヤードを58度でピンそばにぴたりとつけ、「お先に」のバーディー。サンデー・バックナイン(最終日の後半9ホール)、さらにプレーオフの勝負どころで、自己改革の一つ、ウエッジ4本の使い分けが見事にはまった。整理すると、残り距離が長い順に46度(108ヤード)、52度(95ヤード)、54度(88ヤード)、58度(60ヤード)。いずれもピンに絡めた。「18番の3打目は、3本とも(ウエッジで)練習してきた距離が残った」。100ヤード前後からピンを狙うショットの精度を高めてきた成果が出た。

 ウエッジ4本の投入が奏功するには、ティーショットが安定してこそ。そのため、ナイスショットを繰り返し放つ再現性を目指し、トップの位置を低くするスイングに変えた。横振りに近いイメージで弧を描くような形だ。飛距離よりも、まずは正確性を重視。その上で、ロングホールはできるだけバーディーを取りたい。積極的に2オンを狙わなくても、3打目でチャンスにつける。そのマネジメントをどうするか。21年の春以降、「縦距離」という言葉を何度も口にしていた。ラフから、アゲンストやフォローの時、そしてショートゲーム。あらゆる状況に応じて計算した距離に対処していこうと、試行錯誤を重ねてきた。

ポンコツから変革へ

 優勝インタビューや記者会見では、2年近く勝てなかった間のさまざまな思い、葛藤などを吐露した。19年に全英女子オープン制覇で一躍「時の人」となり、代名詞の笑顔はファンの域を超えて人々を和ませ、国民的なヒロインに。国内ツアーでも4勝を挙げた。しかし、新型コロナウイルスの影響下となった翌20年は思うような結果を出せず、シーズン中はしばしば、自身を「ポンコツ」と表現していた。どうしても前年と対比してしまい、歯がゆさ、焦りが先行していたようだ。

 「正直、19年の自分を超えるのは難しいと思った時期もある」。新しい己を確立していこうと、21年を変革の一年に位置づけた。その過程で少しずつ、手応えを感じ取る。「いつかまた勝ちたい、という気持ちが、もうちょっとで勝てるかも、になってきた」。スイング改造などに異を唱える声は、直接、間接を問わず本人の耳にも聞こえてきたようだ。「ああじゃあ、こうじゃあと。(それらに対して)見返してやりたい、という気持ちも(心の)片隅にあった」。そして、勝った。「やってきたことが間違いではなかったから、優勝できた」。そう言い切れた。

「一生打てないショット」

 三菱電機レディースは、最終日の最終盤にドラマが待っていた。またもペ・ソンウと争い、今度は首位タイで出た2人の一騎打ちとなった。渋野は17番で2打差をつけられ、残すは18番(510ヤード、パー5)。「もうイーグルしかない。スイッチが入った」。狙うは2オンのみ。「セカンドで7番ウッドを持てたらいいな、とドライバーをマン振り(フルスイング)。予想以上に飛んでいた」。残り199ヤード。もくろみ通りに7番ウッドで2オンしたが、6~7メートルのイーグルパットは20センチほど届かず、「お先に」のバーディーにとどまる。ペ・ソンウは1~1.5メートルのパーパットを残し、それを決めれば優勝だ。ほとんど誰もがその決着を想定。次の瞬間、パットが外れた。

 同じ18番でプレーオフへ。流れがガラリと変わる。渋野は第1打を、正規の18番ほどではないものの、残り220ヤードまで運んだ。3番ウッドで打ったセカンドは、ピン方向へ。グリーン手前にはバンカー。その右脇でクッションしたボールがグリーンに乗り、ピンまで3メートルで止まった。「もう一生打てないショット」を緊迫する局面で放ち、イーグルパットを鮮やかに沈めた。一度は遠のいた優勝を、もぎ取ってみせた。

 取材を共にした複数の記者らが「やっぱり、持っているね」と口をそろえた。この大会は人数制限付きの有観客。熱戦を見届けたギャラリーも報道陣も、正規18番とプレーオフ18番の「しぶこゾーン」に身を委ねたかのよう。優勝を手繰り寄せたプレーオフの第2打は、日本女子プロゴルフ協会のシーズン表彰で「ベストショット賞」に選ばれた。

スイング改造、着実に成果

 スタンレーと三菱電機は、最終18番がともにロングホール。距離があるスタンレーは「3打目が勝負」となり、ウエッジの効用が目立った。三菱電機では「2オン可能で、ガンガンいける。一球入魂。集中できた」という。グリーンへの攻め方は異なっても、そこに至る過程で、ティーショットをきっちりと打てたことが大きい。三菱電機の場合、正規の18番、プレーオフの18番とも「フィニッシュが取れないくらいマン振りした。あれでもトップから切り返しができている。だから真っすぐに行ったと思う」と自己分析した。

 トップの位置が低いスイングに、目指す再現性が伴いつつあった。「改造の完成度? 50%くらいかな。まだ、毎回同じようなスイングができているわけではない。けれども1日に1回『できた』というショットがあれば、すごくうれしい」。やろうとしていることが、着実に自分のものになってきているようだ。

「出る試合、勝ちにいきたい」

 米ツアー最終予選会を終えた後、晴れやかな表情で目標を口にした。「勝ちたいです。出る試合、勝ちにはいきたい」と言い、「大口をたたいてるけど、大丈夫かな?(第7ラウンドで)79たたいた人が。でも、それくらいじゃないとシードは取れないと思うので、頑張ります!」。明るく元気に力強く、そう宣言した。

(2022年1月6日掲載)

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