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「ジョジョ」に学んだ海賊版との戦い 漫画原作者デビューした弁護士の気概とは【時事ドットコム取材班】

2022年01月05日10時00分

 海賊版サイト「漫画村」の運営者特定や「ファスト映画」の摘発に関わるなど、著作物の違法アップロード問題に取り組みながら、漫画原作者としてデビューした異色の法律家がいる。時には訴訟費用を自己負担してまで違法アップロードと戦い続ける中島博之弁護士だ。その闘志はどこから湧いてくるのか。本人に話を聞いた。(時事ドットコム編集部 太田宇律

 【特集】時事コム

◇「漫画文化が崩壊」と危機感

 ーどうして違法アップロード問題に取り組むようになったのでしょうか。

 2017年に「漫画村」の存在を知ったことがきっかけです。子どものころから漫画が大好きでしたし、それまでも出版社の規約作りや作品中の法律設定などに関わる機会があったので、漫画家や編集者、スタッフの方々がどれだけ苦労して作品を生み出しているのかをよく知っています。情熱の込もった作品を勝手にアップロードしてお金を儲けていることが許せず、何とかして運営者を突き止められないかと考えました。

 ー漫画村はどんなサイトでしたか。

 ファイルをダウンロードする必要がなく、サイト上で気軽に読むことができる「オンラインリーディング(ストリーミング)型」の海賊版サイトでした。7万冊を超える作品が無断掲載されており、サイト上には「日本と国交のない国で運営されているので違法ではない」と、掲載を正当化するようなメッセージも書かれていました。

 こうしたサイトで若い世代の人たちが多くの作品を無料で読めることになってしまうと、著作物に対価を支払う習慣がなくなってしまいます。放置していれば、権利者にお金が入らなくなり、次の作品も生まれなくなって「漫画文化自体が崩壊してしまう」と大きな危機感を持ちました。

 ー運営者特定の突破口になったのは何だったのでしょうか。

 友人の漫画家に原告になってもらい、発信者情報の開示請求訴訟を東京地裁に起こしました。訴訟と並行し、米国のサーバー会社から任意提供を受けた漫画村のアクセスログを分析したところ、運営者はサイトにログインする際、ある企業のドメインのメールアドレスを使っていたことが分かりました。このアドレスを海外のデータベースと照合した結果、所有者の電話番号が判明し、特定につながりました。得られた情報を福岡県警などの合同捜査本部に提供し、男は19年9月に著作権法違反容疑で逮捕されました。

 ー漫画村は閉鎖され、運営者の男は実刑判決を受けました。漫画村に匹敵する規模だった「漫画BANK」も閉鎖になりましたが、海賊版サイトは後を絶ちません。

 新型コロナウイルスの影響でステイホームが呼び掛けられ、空いた時間にスマートフォンで漫画を読む人が増えたことが影響していると思います。書店での立ち読みは第三者の目がありますが、自宅で誰にも気付かれずに海賊版を読めるとなると、安易な気持ちでアクセスしてしまうのでしょう。

◇サイト運営者は「テロリスト」

 ー海賊版サイトの運営者はどういう人物なのでしょう。

 海外サーバーを使うなどし、身元を隠しながら大量の画像をアップロードしてサイトを運営できるのですから、ITに詳しい人物であることは間違いないですね。私は「テロリストに近い存在」と考えています。海賊版サイトでの「ただ読み」による経済的被害は推計で年間7000億円を超えています。企業にサイバー攻撃を加えて身代金を要求する「ランサムウエア被害」が近年問題になっていますが、海賊版サイトも日本の企業とコンテンツを狙ったサイバー攻撃そのものと言えるのではないでしょうか。

 ー海外サーバーを使った海賊版サイトは摘発が難しいのでしょうか。

 漫画村の事件以降、大規模サイトの運営者は逮捕されていません。「やはり海外のサーバーを使って運営していれば安心なのではないか」と考えている運営者は多いと思います。ただ、漫画村事件で、たとえ海外サーバーを使っていても運営者の特定は可能で、海外に逃げたとしても逮捕できることが証明できました。こうした事例を積み上げれば、相当な抑止力になると思います。

◇漫画家デビューの理由

 ー弁護士活動の傍ら、漫画原作者としてデビューされました。

 私は代理人弁護士ですから、基本的に権利者がいなければ著作権侵害と戦うことができません。自分が直接権利者として戦う方法はないかと考えてきたのですが、それには私自身が著作権者になるのが一番だと思い立ち、原作を書き始めました。誕生した作品は、漫画家の新人アシスタントが実は弁護士で、著作権侵害などさまざまな社会問題と戦うというストーリーです。漫画家の武村勇治さんとタッグを組み、連載を始めることができました。

 ー読者に伝えたいことは。

 やっぱりエンタメなので、好きに読んで楽しんでもらえたら十分です。私も多くの漫画を楽しんできましたが、一本筋が通った主人公たちの生きざまは人生の参考になっています。私の漫画も「これを読んで法学部に入った」というように、読んだ人の人生に少しでも影響を与えられたらうれしいですね。

 ちなみに、この漫画で得られる印税は全額、海賊版サイトの撲滅に使うことにしています。

 ー漫画を愛されているのが伝わってきます。

 小学生のとき、いとこの家にあった「週刊少年ジャンプ」(集英社)を読んだのがきっかけで、以来ずっと漫画を読み続けています。「ジョジョの奇妙な冒険」の第3部で、主人公たちが二手に分かれて宿敵を挟み撃ちにするシーンがあるのをご存じですか。読者は私の漫画を読んでいただくことで、印税を介して海賊版サイトと戦い、私は弁護士として司法の現場で戦う。あのシーンのように、読者と私とで「挟み撃ち」にして著作権侵害と戦っていけたらと思っています。

◇「真実に向かう意思」が大切

 ー漫画だけでなく、ファスト映画の摘発にも関わられました。

 摘発されたファスト映画投稿者は「他の人もやっているから大丈夫だと思った」と話していました。「ユーチューバー」は子どもたちの将来なりたい職業ランキングでベスト10にランクインするほど一般化してきましたが、動画投稿でお金を稼ぐならちゃんとプロ意識を持って法律を調べてほしいですね。「知り合いの弁護士が大丈夫だと言っている」とそそのかされてファスト映画制作に関わり、巨額の賠償金を払うことになった人もいました。

ー海賊版の読者や視聴者に伝えたいことは。

 違法アップロードは、犯罪者が収益を得る手段です。海賊版を読んだり、視聴したりすることは犯罪に間接的に協力していることになります。また、お金を得た犯罪者が人を雇い、さらに被害を拡大させることもあると知ってほしいですね。漫画は1コマ1コマ、漫画家が考え抜いてできたもので、映画は演技者や監督、スタッフたちの思いがこもったシーンの連続です。海賊版ではなく、ぜひ正規品に触れてほしいと思います。

 ー著作権侵害と戦う上で、心に留めていることはありますか。

 「ジョジョ」の第5部に「真実に向かおうとする意志があれば、今回は犯人を逃がしてしまってもいつかたどり着く」という台詞がありました。海賊版サイトとの戦いは「いたちごっこ」と言われることがありますが、摘発や法改正などの積み重ねで、対策は前進しています。「海賊版を絶対に撲滅する」という確たる意思を持って、みんなで目標に向かって進んでいくことが重要だと思っています。

中島博之(なかじま・ひろゆき) 2007年中央大法学部卒。10年神戸大大学院法学研究科法科大学院修了後、衆議院議員秘書を経て11年に弁護士登録。専門は企業法務、知的財産法、ウェブ上の権利侵害対策など。21年8月、「ゆうきまひろ」のペンネームで漫画原作者としてデビューし、コミックアプリ「マンガワン」で「弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい」を連載している。

(2022年1月5日掲載)

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