全勝で涙の五輪切符
2月4日に開幕する北京冬季五輪。開会式に先駆けて2日に始まるカーリングの混合ダブルスで、歴史的な一歩を刻むペアがいる。オーストラリアのカーリング界で史上初めて五輪切符をつかんだ男子のディーン・ヒューイット(27)と女子のタリ・ギル(22)だ。世界ランキング14位ながら、昨年12月の五輪最終予選(オランダ・レーワルデン)を7戦全勝で突破した。日本勢と何度も対戦経験がある2人。冬季スポーツの祭典で躍動する姿を、南半球に位置する真夏の母国へ届けるつもりだ。(時事通信ロンドン特派員 青木貴紀)
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重圧がのし掛かる一投を見事に決めた。世界ランクで格上の韓国との五輪最終予選プレーオフ、5―5の後攻で迎えた最終第8エンド。ギルはTライン奥にあった韓国の石の手前へドローショットを投じ、円心の一番近くに止めた。ヒューイットと固く抱き合い、ギルの目にみるみる涙があふれる。新たな歴史の扉をこじ開け、感慨がこみ上げた。
ヒューイットは「私たちは人生の全てをささげてきた。夢がかなった。信じられない」と実感が湧かない様子。ギルも「言葉にならない。最高の気分」と興奮気味に語り、2人は満面の笑みを浮かべて見つめ合った。
実はこのペア、日本とも縁がある。2019年の混合ダブルス世界選手権準々決勝で、藤沢五月(ロコ・ソラーレ)と山口剛史(SC軽井沢ク)の日本ペアと熱戦を繰り広げ、6―5で競り勝った。惜しくもメダルには届かなかったものの、4位入賞を果たした。4人制でもパシフィック・アジア選手権で男子のヒューイットは両角友佑ら平昌五輪に出場したメンバー在籍時のSC軽井沢クやコンサドーレと、女子のギルもロコ・ソラーレとそれぞれ対戦している。
1年の半分は海外で強化
メルボルン出身のヒューイットは、カーリング大国カナダ出身の母親に勧められて競技を始めた。ギルはブリスベン出身。フィギュアスケートからカーリングに転向した。ペア結成のきっかけは約3年半前。ヒューイットがギルに電話をして「一緒に五輪に出ない?」と誘った。ヒューイットは「ギルが素晴らしいショットを投げているのを見て、一緒に成長していけば素晴らしいことが実現できるかもしれないと思ったんだ」と当時を振り返る。
豪州はカーリングがそれほど盛んではなく、専用施設がほとんどないという。このため、2人は豪州では週1回、アイスホッケーのリンクを使って練習する程度。1年のうち半年ほどは海外に拠点を置いてトレーニングを積み、大会に参加しながら地道に強化してきた。
歴史的舞台を心待ち
ヒューイットの父親は1992年アルベールビル五輪で、公開競技として行われたカーリングに豪州チームの一員として参加した。それから30年後。自分の息子が、98年長野五輪でカーリングが正式競技に採用されてから豪州のカーラーとして初めて五輪のアイスに立つ。不思議な運命の巡り合わせを感じさせる。
北京五輪での目標を尋ねると、ヒューイットは「五輪にたどり着くことが目標だったから、そこまで考えていなかった」とおどけた後、「自分たちの位置を再確認して準備し、北京五輪で何ができるのか考えていきたい。とにかく楽しみだよ」。大舞台を心待ちにした。
混合ダブルスは前回の18年平昌五輪から正式種目となった。日本の松村千秋(中部電力)谷田康真(コンサドーレ)組は残念ながら日本勢初の五輪出場権に届かなかったが、豪州ペアの出場は日本勢の4年後に向けて希望を与えてくれる。女子で日本(ロコ・ソラーレ)の2大会連続メダルが期待されるカーリング。爽やかな豪州ペアの歴史的初舞台も見逃せない。
(2022年1月31日掲載)