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「災害レジリエンス」どんな意味? 専門家に聞く「しなやかな社会」とは

2021年12月25日08時00分

浅利美鈴・京都大大学院准教授

 地震や津波、豪雨、豪雪、土砂崩れー。日本は豊かな自然に恵まれる一方、毎年のようにさまざまな災害に見舞われ、多くの人命と財産が失われてきた。そんな中、耳にする機会が増えてきた「災害レジリエンス」という言葉。「防災」や「減災」とはどう異なるのか。環境教育論を専門としている京都大大学院地球環境学堂の浅利美鈴准教授に聞いた。(時事通信社会部 太田宇律)

 【特集】社会コーナー

 ー「災害レジリエンス」とは、どのような考え方なのでしょうか。

 災害が起きても、そこからしなやかに復興できる力のことです。レジリエンス(resilience)という言葉には「回復力」や「しなやかさ」という意味があり、災害によって都市機能にダメージを受けてしまっても、できるだけ早く機能回復できるように普段から備えようという考え方ですね。

 ー防災や減災とはどう違うのでしょうか。

 まず「防災」は、災害の発生自体を未然に防ごうとする考え方です。ただ、いわゆる「人災」であれば事前の備えによって発生を防ぐことができますが、自然災害の発生を完全に防止することは現実的ではありません。そこで、「災害は必ず起きるもの」という前提に立って、その被害を最小限にしようと試みるのが「減災」の考え方です。被災リスクが高い地域と分かっていても、そこに住み続けるしかなく、被害を受けてしまうことがありますね。こうしたケースは「人災」の側面もあるので、防災を徹底することで被害を未然に防げる可能性があります。

 防災と減災、両方の考えを大切にすることが、災害に強い社会を作る上で重要になるわけですが、例えば、災害時には、建物が壊れてたくさんの廃棄物が出たり、自治体の廃棄物処理機能が崩壊したりします。そうした被害ができるだけ少なく済むように、普段から建物の耐震性を高めて災害廃棄物を減らしたり、住民がどうごみを処理するか決めておいたりすることで、いち早く都市機能を取り戻す。これが災害レジリエンスの考え方です。

 ー被災前の状態にいち早く戻せるように備えるということですね。

 その通りです。ただ、元通り災害に弱い都市に戻ってしまったのでは意味がありませんね。そうしたことがないように、発展途上国などでは脆弱だった建物を、復興を期により強く造り替える「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」と呼ばれる取り組みが進んでいます。

 ー思ってもみなかった災害が起きて、はじめて都市機能のもろさを感じることがあります。

 ひとたび災害が起これば、さまざまな弱者が生まれますし、そうした人たちには目が行き届かなくなりがちです。災害時こそ社会が抱えている課題が凝縮して起こるわけですから、普段からそうした前提で対応策を考えることが重要です。

 例えば、普段から地域の空き家対策をしておけば災害時に倒壊するのを防ぐことができますし、災害で出たごみをただ処分するのではなく、どう社会の中で循環させるか考えておくことも重要になります。長く住み続けられる街作りのためには、私たち自身が「当たり前」を変えないといけないと思っています。

 ー海底火山の噴火で、沖縄県などに大量の軽石が漂着する被害が発生しました。この軽石をごみとして処分するのではなく、水質浄化や畑の土壌改良、工芸品造りなどに活用する取り組みも各地で始まっています。

 素晴らしいことですね。そうした工夫を通じて新しい価値が生み出されれば、廃棄物だったものが資源となり、社会貢献にもなる。「災害レジリエンス」の考え方につながる好事例と言えます。現在、高度成長期に作られたインフラ設備や土木資材が次々に老朽化しており、近い将来、大量の産業廃棄物を生むことが必至です。今回の軽石被害もそうですが、こうした廃棄物をどう社会の中でリサイクルしていくかが、いま社会全体で考えるべき大きな課題になっているのです。

 ー日本は常にさまざまな災害のリスクにさらされています。我々はどう向き合っていくべきなのでしょうか。

 「正しく知って恐れる」という考え方が重要です。災害はいつ起きてもおかしくないものですが、災害についてよく知らないまま恐怖心を抱くのではなく、今のままではどんなリスクがあり、どう対策したらいいのかについて、個々人で考えるべきだと思います。

 そして、例え数百年に一度の災害であっても、大きなダメージを受けてしまったのであれば、そこから得られた教訓を次世代に受け継いでいかなければなりません。三陸地方では「津波てんでんこ」(津波が来たらてんでばらばらに逃げろ)という考えが言い伝えられてきました。数十年、数百年と災害で得られた知恵を引き継いでいくには、地域の人々のたゆまぬ努力が必要だったと思いますが、人間にはこうして自然と共生していく力が備わっているのだと感じています。

浅利美鈴(あさり・みすず) 京都大工学部卒。京都大助教などを経て、2016年より京都大大学院地球環境学堂准教授。専門は環境教育論、環境工学、災害廃棄物問題など。持続可能な開発目標(SDGs)の啓発活動や、京都大のエコキャンパス化などにも取り組んでいる。(2021年12月25日掲載)

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