7年目の覚悟と成長
かつて甲子園を沸かせ、ドラフト1位でプロ野球界に入った剛腕が、年月を重ねた末に自分の働き場所を見つけた。楽天の安楽智大投手(25)。7年目の2021年シーズン、貴重な中継ぎとしてチームに貢献した。愛媛・済美高時代は世代ナンバーワン、最速157キロの力投派だったが、15年にプロ入り後は苦悩と試行錯誤の日々。遠回りしてセットアッパーの地位をつかみ、輝きを放った。さらなる飛躍へ、22年はその真価が問われる。(時事通信仙台支社編集部 三浦早貴)
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1年前、20年12月。契約更改を終えた安楽は、覚悟にも似た決意を口にしていた。本格的に中継ぎを担うようになった同年は27試合に登板して1勝、5ホールド。「ドラフト1位(入団)でやってきたプライドがある。スカウトや球団に恩返ししないといけない7年目になる。遅咲きかもしれなけど、花を咲かせたい」。熱い思いを翌年、実績に結びつけた。
21年の前半戦は「敗戦処理」を忠実にこなしたり、走者を置いた緊迫した場面で登板したり。与えられた持ち場で、失点が少なく安定した投球を続けた。ベンチの信頼度が高まり、後半戦はセットアッパーとして起用されるまでになった。守護神の松井裕樹投手が離脱してから抑えを固定しなかったチームにあって、10月7日のロッテ戦ではリードした展開で九回のマウンドに立ち、プロ初セーブを挙げた。
堂々のセットアッパー
任される位置が変わり、背負うプレッシャーも大きくなっても、安楽は自信に満ちていた。「マウンドに上がって背伸びをしたところで、160キロとか、投げたことのない変化球を投げられるわけじゃない。やってきたことを信じる。これだけのことをやってきた、という自信があった」。重圧のかかる新たな役割にも、大きなやりがいを感じ取っていた。
自己最多の58試合に登板して、3勝3敗2セーブ、22ホールド(25ホールドポイント)。56回3分の1を投げて50奪三振、防御率は2.08。セットアッパーにふさわしい数字を並べた。石井一久監督は、安楽の成長に目を細める。「ステップを踏んで1軍の中で投げられますよ、というのを見せてくれている。ビハインドでしか投げられなかったところを、実力で勝ちパターンの中に入って投げられている」と評価。安楽が失点して敗れた試合もあった。裏を返せば、緊迫した展開での登板。そこを任せた指揮官の絶大な信頼があった。
2年生の157キロ右腕
高校時代にさかのぼる。誰もが認める先発完投型の超高校級右腕だった。松山市出身で愛媛県の強豪、済美に入学。名将だった上甲正典監督(故人)の指導下、1年生の秋に済美が選抜大会出場を有力にした頃から「安楽あり」とその名をとどろかせていた。新2年生で迎えた2013年の選抜大会。体のサイズやスケール感だけでも、他校のエースたちを圧倒していた。
初戦は広陵(広島)が相手。152キロをマークし、チームは延長戦を制した。春先の甲子園で150キロ超を出すだけでもまれだが、まだ2年生。済美は順調に勝ち進んだ。決勝の浦和学院(埼玉)戦。安楽は疲労蓄積も影響して中盤に大量失点。途中降板した。済美は準優勝。相手のエースは同じ2年生の左腕、小島和哉投手(現ロッテ)だった。
夏の甲子園出場が懸かる7月の愛媛大会で、自己最速の157キロ。甲子園では3回戦で敗退したが、2回戦で高校生の「甲子園最速」に並ぶ155キロを出した。高校日本代表としても活躍。1学年上の代表メンバーに、今はチームメートの松井(神奈川・桐光学園)がいた。
紆余曲折のプロ5年間
その松井に続く楽天のドラフト1位。背番号「20」をもらい、新入団発表で「20年活躍し、20勝できる投手になりたい」と抱負を語った。当然ながら、先発投手として掲げた大きな目標だ。ルーキーイヤーの15年、10月5日のソフトバンク戦でデビューして6回無失点。プロ初先発で初勝利を手にした。だが、その後は順風満帆とはいかなかった。
度重なるけがにも悩まされ、入団して5年間で故障がなく投げられたのは2年目だけ。紆余(うよ)曲折し、なかなか思うような成績を残せなかった中でも、先発にはこだわってきた。「そうも言っていられる立場ではない」と、思考を変え始めたのが19年。シーズン後半は救援に回って、活路を見いだすことにした。
剛から柔へ、スタイル一新
速球で押してきた投球スタイルを変えた。20年のシーズン前には、カットボールとチェンジアップの習得に取り組んだ。鋭く落ちるチェンジアップは打者のタイミングを外して空振りを取れる新たな勝負球になった。直球のスピードは平均して140キロ台の後半に。ストレートとの緩急を付けることで、投球の幅がぐっと広がった。
20年は緊急登板やロングリリーフが主だった。先発の時とは違い、ブルペンに入って毎日肩をつくる日々。早く肩をつくって登板に備えられるようにと、キャッチボールから意識した。「毎日20球で(肩を)つくってマウンドに行くか、10球でマウンドに行くか、パフォーマンスが一緒なら10球の方がいい。より少ない球数でより高いパフォーマンスを出せることが、中継ぎには必要」。現役時代に長く中継ぎで活躍し小山伸一郎投手コーチらの助言を胸に、練習を積んできた。シーズンを通して中継ぎで回った経験は、21年に大きく生きた。
「圧倒的な投球」目指す
11月22日の契約更改交渉。2300万円増の推定年俸4000万円でサインした。今季の倍以上。躍進を実感できるはずだが、満足はしていない。抑えた時よりも打たれた試合を鮮明に覚えている。目指すのは「圧倒的な投球」。60試合登板と防御率1点台という新たな目標を掲げている。
自分より年下の選手たちでも次々と戦力外を通告される厳しい世界で、必ず生き残ると心に決めた。「正直、僕の代わりはいくらでもいると思う。酒居(知史)さん、(宋)家豪さんら、いい投手がたくさんいるので、置いていかれないようにセットアッパーの座を勝ち取っていきたい」。たゆまず、精進を重ねていく。
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安楽 智大(あんらく・ともひろ) 1996年11月4日生まれの25歳。松山市出身。愛媛・済美高2年生だった2013年春、エースとして選抜高校野球大会で準優勝。同年夏は愛媛大会で自己最速の157キロをマーク。春夏連続で甲子園に出場し、2回戦では甲子園最速タイの155キロ。3回戦で敗退した。ドラフト1位で15年に楽天に入団。プロ7年間の通算成績は122試合に登板して9勝17敗2セーブ、27ホールド、防御率3.55。186センチ、87キロ。右投げ左打ち。
(2021年12月23日掲載)