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外国人にも一票 どう考える?住民投票条例

2021年12月16日08時00分

武田真一郎・成蹊大教授

 一定期間住めば日本人か外国人かを問わず、住民投票できるようにしようという考え方が徐々に浸透してきている。「外国人参政権につながる」といった反対意見も根強いが、少子高齢化が進む日本では、外国人労働者を抜きにしては、生活が成り立たなくなりつつあるのも事実だ。コンビニしかり、介護しかり、彼らなしで現場は回らない。必要不可欠となった隣人との関係。いったいどう考えればよいのだろうか。住民投票条例の研究で「第一人者」と言われる成蹊大の武田真一郎教授に解説をお願いした。

 【特集】教えていただきました

 住民投票条例で外国人に投票資格を認めることには、どのような問題があるのだろうか。そもそも住民投票によって住民の意見を聞くことの意味はどこにあるのか。反対派の意見にも耳を傾けつつ考えてみたい。

◇憲法、公選法と条例 憲法は、地方公共団体(自治体)は法律の範囲内で条例を制定することができると規定している。日本の法律には外国人が住民投票で投票をすることを禁止したり制限したりする規定はないから、条例で外国人の投票資格を認めることは違法ではない。

 反対派は、外国人に投票資格を認めると選挙権を認めることにつながると考えているようだ。しかし、選挙権は国政選と地方選のいずれについても公職選挙法で規定されており、国会が決める問題だ。外国人に住民投票の資格を認めたからといって、国会が公選法を改正して外国人に選挙権を認めるとは考えにくい。仮に改正があり得るなら、住民投票の投票資格を認めることの問題点ではなく、選挙権を認めることの問題点を議論すべきだ。

◇国籍と二元代表制 反対派の考え方は、二元代表制のよりどころは日本国籍を有する住民が市長や議員を選ぶことにあり、外国人などの投票者の意思を地方行政に反映させると議会の機能低下につながるーなどというものだ。二元代表制とは何か。住民が長と議員を選挙で選び、長と議会が直接的に住民に対して責任を負う制度だ。つまり、長と議会が協力し、また相互に監視しながら住民に対する責任を果たすことが重要であって、日本国籍を有する住民に選ばれることが重要なわけではない。

 これに対して投票資格を認める理由としては、①表現の自由のような普遍的な基本的人権は外国人にも保障されており、同じ地域に住む外国人には地域の問題について意見を表明する権利がある②地域の問題を共に考えることは、日本人と外国人が相互理解を深めるよい機会であり、それは日本が諸外国と共存していくために不可欠ーなどが考えられる。

◇住民投票の意義 反対派の主張には「外国人の意見を聞くならアンケートなどの方が適している」などがある。住民投票を実施するか否かをその都度判断するのではなく、一定の署名が集まれば必ず投票を行う「常設型」の住民投票条例を設ける自治体が増えているが、反対派の中には、住民投票は必要があるときにその都度実施すれば足り、自治体の町づくりの基本方針を定めた自治基本条例から「住民投票に関する条文を削除すべきだ」との意見もある。

 なぜ、日本各地で多数の住民投票が実施され、常設型の住民投票条例の制定が進められているのだろうか。日本を含む現代国家は選挙制度を中心とする間接民主制を採用している。ところが、選挙制度には選挙で選ばれた代表が民意を反映せず、住民が望むことをしない、住民が望まないことをしようとするという重大な問題がある。

 このような間接民主制の機能不全が生じたとき、それを是正するために直接民主制としての住民投票が実施されている。多くの場合、投票結果に従って政策が変更され、住民投票は間接民主制の本来の機能を回復させる役割を果たしている。

 住民投票がこのような役割を果たしているのは、それが単なるアンケートや世論調査ではなく、賛否両論を比較した上で賛成か反対かという二者択一の政策決定として実施され、住民の明確な意思が示されるからだ。住民投票は議会や行政が民意を反映せず、間接民主制の機能不全が生じたときに実施される。だから、その都度住民投票を実施するために住民投票条例が議会で審議されたとしても、大半が否決されてしまう。そこで一定の署名が集まれば必ず投票を実施する常設型の住民投票条例の制定が各地で進められているのだ。

◇これからの日本 気になるのは「外国人の投票資格」に反対する意見が「住民投票そのもの」への反対とセットになっていることだ。西側先進国として発展してきた日本が、人権(外国人の人権も含まれる)と民主主義という重要な価値に背を向けてよいはずがない。日本の国力は低下し、国民1人当たりの 国内総生産(GDP)は韓国を下回り、円安とインフレが進んでいる。 日本のエネルギー自給率は約12%、食料自給率は37%(カロリーベース)で、エネルギーも食糧も外国に依存している。急激な少子高齢化で労働力の外国人への依存も高まるはずだ。

 問題は、単に外国人に住民投票の投票資格を認めるかどうかということではなく、これからの日本が外国人あるいは諸外国とどのように付き合っていくのか、そしてどのような価値観と世界観をもって発展していくのかということなのだろう。

武田真一郎(たけだ・しんいちろう) 成蹊大法学部教授。成蹊大大学院法学政治学研究科修了(法学博士)。徳島大助教授、愛知大助教授、成蹊大法科大学院教授を経て2021年4月から現職。専門は行政法。著書に「吉野川住民投票」(東信堂)がある。(2021年12月16日掲載)

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