東京五輪で金メダルを獲得した日本の女子ソフトボール界にとって、2022年は新たな時代へ踏み出す年になる。3月に招集する日本代表は世代交代を図り、日本リーグに代わる「ニトリJD(ジャパンダイヤモンド)リーグ」も始まる。金メダルで高まった注目度をバネに、24年パリ五輪では実施されない試練に挑む「ダイヤの原石」たちを探ってみた。(本文中の現役選手の年齢は21年12月31日時点、チーム名は21年シーズンの所属先)
上野が「バトンタッチできる」と言った後藤
21年11月7日、福島県営あづま球場。リリーフでビックカメラ高崎の日本リーグ3連覇に貢献した上野由岐子(39)は、「いい意味でバトンタッチできる。世代交代の兆しが見えてきた」と喜んだ。後輩の成長を待ちわび、時に厳しい言葉で奮起を促してきた上野。チームの主力投手としてレギュラーシーズン6勝を挙げ、最優秀防御率(0.65)のタイトルを獲得した濱村ゆかり(26)とともに、東京五輪の好リリーフで一躍ブレークした後藤希友(20、トヨタ自動車)の名前を挙げた。
東京五輪代表15人のうち、年末までに主砲の山本優ら5人の引退が公示され、他に代表からは退く選手もいて、引き続き宇津木麗華監督が指揮する新たな日本代表は、大きく顔ぶれが変わる。
JDリーグは日本リーグより4チーム多い16チームで構成。東西2地区に分かれ、交流戦を挟みながらレギュラーシーズンを戦ったあと、ポストシーズンで日本一を決める。試合数とともに若手のチャンスが増えそうだ。
女子ソフトボール界の新しい「顔」になりつつある後藤は、五輪を境に一変した周囲の空気に戸惑いと重圧を感じながらも、日本リーグ後半で自信に満ちた投球を見せた。シーズン9勝3敗、防御率0.83。最高殊勲選手賞と最多勝を獲得し、「若い世代を代表してもっとソフトボールを盛り上げていきたい」と、口にする言葉も変わった。
動く直球とチェンジアップを交えた強気の投球が持ち味だが、宇津木監督は「今は持っているものを全部出して投げている」という。待ち受ける厳しいマークの先を行くための課題は、球種を増やすこと。とりわけ浮き上がるライズボールの習得が急務だ。
「切石を育てなければ」と宇津木監督
日本リーグでその後藤をリードしたのは切石結女(22)。21年のトヨタ自動車は少ない好機をものにして守り切る試合が多かった。中西あかね監督は「切石が自信を持って配球できるようになり、後藤が思い切って投げられる。切石の成長があったから決勝まで来られた」と高く評価し、切石は「(JDリーグでも)守りからリズムをつくれるように。東西に分かれたり交流戦があったりという試みを楽しみながら、ソフトボールが広まるように盛り上げたい」と話す。
日本代表でも宇津木監督が「日本はこれから切石を育てなければいけない」と「指名」し、正捕手に育った我妻悠香(27、ビックカメラ高崎)を追う存在として期待される。強肩でフットワークにも定評があり、これからタイプの違う投手や海外の打者を相手にどう成長していくか。我妻と同じ身長172センチで、打撃のスケールアップも課題。
投手では高校2年から代表を経験してきた勝股美咲(22、ビックカメラ高崎)がドロップを習得中。速球とライズボールに加えて投球の幅が広がれば、少し気持ちが優しいマウンドさばきも変わりそうだ。後藤とともにトヨタ自動車で台頭し、5月に日本リーグで完全試合を達成した三輪さくら(23)は身長179センチ。スピードがあり、変化球も操る。
日立の坂本実桜(21)は、かつての高山樹里のようなライズボールを武器に、4年ぶりの決勝トーナメント進出に貢献した。ピンチでも見せる笑顔を、本人は「緊張して笑ってしまうから」というが、度胸の良さが魅力だ。
日本リーグ5勝2敗、防御率1.12で投手の新人賞を獲得した寺田愛友(23、太陽誘電)は左腕から早いテンポの投球が持ち味。山路典子監督は「1年目は経験を積ませるだけだと思っていたら、経験を生かしてリーグ中に成長した」と話す。左腕では長谷川鈴夏(23、豊田自動織機)、中山日菜子(23、大垣)もいる。
打撃が変わった中溝、「ポスト渥美」に名乗り
内野手では中溝優生(23、太陽誘電)が8本塁打で本塁打王を獲得した。テークバックをなくして振り出しを早くするなど、打撃を大きく変えて打率も3割1分3厘。遊撃は日本代表の渥美万奈が引退したポジション。工藤環奈(22、ビックカメラ高崎)らとともに「ポスト渥美」をうかがう。「五輪を見ていて、代表には感動を与えてくれる選手がたくさんいた。夢であり目標。私もそこをしっかり目指していきたい」と中溝。
二塁手では豊田自動織機の1番打者に定着した須藤志歩(22)、20年野手新人賞の杉本梨緒(24、ホンダ)ら、三塁手では須藤麻里子(24、大垣)、21年の野手新人賞で外野も守る高瀬沙羅(23、日立)らが注目される。
外野手には川村莉沙(21、太陽誘電)、藤本麗(22、ビックカメラ高崎)、新人で盗塁王(17盗塁)になった小林美沙紀(23、シオノギ製薬)ら俊足の若手が目立ち、19年の首位打者で新人賞を獲得した石川恭子(25、トヨタ自動車)も脚力があって内外野を守る。パワフルな打撃で期待されるのは中川彩音(23、豊田自動織機)だ。
22年の日本代表は1月末に4日間の選考会を行って決める。東京五輪代表で引き続き代表でプレーする意向の選手をはじめ実業団、大学から40人前後を呼び、この中から20人弱を選出。3月初めの強化合宿で活動を始め、7月のワールドゲームズ(米国)、9月のアジア競技大会(中国)などを戦う。
日本ソフトボール協会の矢端信介選手強化本部長は「長期的には28年ロサンゼルス五輪で競技に復帰することも期待して育成する」と話し、若手は特長や武器を持った選手が選ばれそうだ。
JDリーグは3月28日、千葉・ZOZOマリンスタジアムでのビックカメラ高崎-トヨタ自動車戦で開幕する。
【東京五輪の金メダリスト】
▽投手 上野由岐子、藤田倭(以上ビックカメラ高崎)、後藤希友(トヨタ自動車)▽捕手 我妻悠香(ビックカメラ高崎)▽内野手 内藤実穂、市口侑果(以上ビックカメラ高崎)、川畑瞳(デンソー)▽外野手 原田のどか(太陽誘電)
▽山田恵里(デンソー)、清原奈侑(日立)は代表から退く見通し。峰幸代、渥美万奈、山本優、山崎早紀、森さやかは引退。
(時事通信 若林哲治)(2021年12月29日掲載)