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チテンゲに祈りを込めて ザンビアの出産

命懸けの出産

 大きな満月が静まりかえった産科病棟の輪郭を柔らかく照らしていた。分娩(ぶんべん)室から蛍光灯の明かりが漏れている。アフリカ南部ザンビアの小さな村の診療所。午前2時5分、2400グラムの女の赤ちゃんが産声を上げた。

 少年っぽい顔立ちをした17歳の妊婦はその瞬間、初産の緊張から解けたようにふんわりとした表情を見せ、母になった。カラフルなプリント生地「チテンゲ」にくるまれ、すやすやと眠る赤ちゃんを胸に、「娘には看護師になってほしい」と話す。

 しかし、きちんとした診療所での出産は、ザンビアでは少数派だ。

 ザンビアは1964年の独立以来、アンゴラやコンゴ民主共和国(ザイール)などの紛争国に囲まれながらも平和を維持してきた。近年は主要産業、銅の価格上昇で経済的にも成長するが、国民の約8割が1日2ドル(約170円)未満で暮らす貧困層。とりわけ農村部の暮らしは厳しく、女性は十分な医療ケアを受けられない状態で妊娠・出産を繰り返し、時に合併症で命を落とす。

 世界では年間36万、1日に1000人もの妊産婦が死亡している。その99%が途上国、60%近くがサハラ砂漠以南のアフリカで。新たな命を産み出すはずの女性が、なぜ自らの命を落とさなくてはならないのか。命懸けで出産に臨むザンビアの女性たちとの出会いを通じて考えた。(時事通信社ワシントン特派員 淡路愛)

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