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◆コラム◆沸いた初場所
 横審委員の眼

別人となった琴奨菊

琴奨菊(右)は白鵬を押し出しで破り、11連勝=2016年1月20日、東京・両国国技館【時事通信社】

 初場所は、琴奨菊の活躍で盛り上がった。

 大関になってからの成績は芳しくなく、今回も多くは期待できないだろうと見られていただけに、日増しに力強さを増す相撲ぶりには驚かされた。しかも、日本出身力士の優勝は、栃東以来10年ぶりのことである。地元や応援団には、待ちに待った快挙であっただろう。何せこの間の優勝者は、モンゴル出身の白鵬、朝青龍の二人だけで45回という記録が示すとおり、すっかり外国勢に席巻されていたのである。相撲界に変化が現れる予兆かも知れない、と感じた相撲ファンも多いのではないか。

 それにしても、琴奨菊は驚くような変身を遂げた。突如として別人になったかのように見える。何がきっかけとなったのか。平凡な31歳の大関の、心技体のどこが変わったのか。長年相撲を見続けてきた一人として、誠に興味が尽きない。

 外野席にいる素人には真相を知る術はないが、何かのはずみで偶然そうなったとは想像しがたい。実力があっても負けることはあるが、実力がなければ勝ち続けすることはできないからである。

 優勝インタビューで彼は、とつとつと次のように述べた。「半年前からトレーニングを始め、若い衆と一緒に、毎日のルーティンとしてやるべきことをやってきた。それが結果につながった」と。これまでにない新しい鍛錬方法を取り入れ、それを実行し続けたという。長年の習慣を変えるには、よほどの覚悟があったものと推察する。

 「毎日のルーティンとは、一日中のこと」とも語った。分かりにくい言葉だが、自分の心身を鍛え直すために、四六時中、生活と稽古に対する態度を変えたという意味であろうか。また、「つらい時に壁になり支えてくれた、両親、師匠、そして周りの人に感謝している」とも語っている。飾り気のない言葉に、人柄がにじみ出ているようだ。昨年7月に結婚したそうだが、家庭を持ったことも大きな励みとなったに相違あるまい。

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