今、注目を集めているのが、警察の予算削減、もしくは解体を求める運動だ。銃を持つ警官の役割を限定させ、困っている人に寄り添うソーシャルワーカーなどを活用するシステムへの移行を求めている。ただし、実際にどのような仕組みになるのか不明瞭であり、治安の悪化を懸念する声も大きく、左派の中でも懐疑的な人は多い。
差別是正に積極的なバラック・オバマ前大統領の対策チームが2015年にまとめたリポートでは、市民との信頼構築、取締り方法の方針を明確化、警官のボディカメラ着用などテクノロジー活用といったことが提言されている。
しかし、改革の速度は自治体によってまちまちで、その間にもフロイドさんのような事件が頻発し、業を煮やした黒人や若者が立ち上がったのである。
「私たち黒人は、これまで幾度となく変化を約束され、その度に裏切られてきた」と前出のグースさんは集会で語った。「我慢の限界がやってきて、誰かを殴りたいと思う気持ちになるのも分かる」
オバマ大統領は、1960年代の黒人による公民権運動に比べると、現在の差別への抗議運動は幅広い層から支持を得ていると分析する。アメリカ人の半数以上が運動に理解を示すなど、30、40年前には、あり得なかったと言う。
マーティン・ルーサー・キングやマルコムXなどの名前を挙げ、アメリカの進歩を牽引してきたのは若い人々だとオバマ大統領は強調する。
「こんなにたくさんの若者が活気付いて、駆り立てられ、やる気に満ちて、結集したことは大きな希望を感じさせてくれる…この国は良くなると感じさせられる」
筆者も実際に取材してみて、若者の熱意に驚いた。
日本で過ごした高校や大学時代に、自分が彼らと同じように信念や共感に突き動かされて声を上げられたとは、正直思えない。一郊外のデモに1000人以上が参加し、片膝をついて黙とうを捧げるといった映画のようなことが現実に起きるのがアメリカなのだ。
抗議の賛否は別にして、若者が社会問題に真正面から向き合い立ち上がるこの国に、希望を感じずにはいられない。
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志村朋哉 米カリフォルニア州オレンジ郡を拠点に、英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。アメリカの新聞社オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで、唯一の日本育ちの記者として10年間勤務。政治や経済、司法、スポーツなどあらゆる分野の記事を取材・執筆している。
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