会員限定記事会員限定記事

ニュースが取り上げない米デモの真実~立ち上がるアメリカの若者~

盛り上がりの理由

 黒人の代表者によるスピーチが終わると、すぐに行進が始まった。

 拡声器を持ったジョーンズさんを先頭に、タスティンの大通りに群衆がなだれ込んだ。主催者たちが予め市から許可をとっていたため、パトカーが道路の片側を封鎖していた。

 「ブラック・ライブズ・マター」や「人種差別する警察はいらない」などの抗議メッセージを連呼しながら町の中心部を歩く群衆に、応援の言葉をかける者や車のクラクションを鳴らして支持を表明する者もいた。若者が中心なだけあって、スケートボードに乗りながらプラカードを掲げる姿も目にした。数百メートルにわたって、片側三車線を覆い尽くす長蛇の列ができていた。

 「こんなにたくさんの人が集まるなんて、この町では滅多にありません」とタスティンで生まれ育ち、ガールフレンドとデモに参加した白人のリー・フィンクさん(44)は言う。

 「みんな人種差別に終止符を打つ方法を模索しなければならないと分かっているんでしょう。こんなにたくさんの若い人が頑張っているのを見ると、私のような年長者も、もっと何かすべきだという気持ちになります」

 では、なぜこのタイミングで、アメリカで抗議デモがここまで盛り上がったのだろうか?

 一つには、フロイドさんとテイラーさんの死や、ニューヨークのセントラルパークで黒人男性に犬をつなぐよう注意された白人女性が警察を呼ぶといった事件が相次いだことがある。フロイドさんとセントラルパークでの事件は、証拠となる動画が存在する。短い期間に明らかな差別を繰り返し見せつけられたのだ。

 タスティン集会の黒人参加者は口を揃えて、ようやく白人が自分たちの苦しみに耳を傾けてくれるようになったと言っていた。スマホとソーシャルメディアが普及して、差別や暴力がより明るみに出るようになり、社会の仕組みに問題があるのではないかと考える人が増えたのだと前出のムーディアン教授は言う。

 実際、デモが始まってから米アマゾンの書籍売り上げトップ20の半数以上を人種関連の本が占めている。

 コロナの影響もあるだろう。

 ウイルスの被害に加え、2カ月以上も外出や人と会うのを禁止され、フラストレーションやストレスがたまっていた。更に、黒人やヒスパニックが特に健康、経済的被害を受け、人種間の格差が浮き彫りになった。

 トランプ大統領の対応や過激な発言も火に油を注ぐことになったとムーディアン教授は分析する。自身の支持基盤である右派の抗議運動には理解を示すが、今回のデモには軍の動員をも辞さない姿勢を示した。

 「こうしたことがタイミングよく重なり、この数週間で起きたことにつながったのだと思います」とムーディアン教授。

 もちろん冷めた目で見る人もいる。

 サイクリングをしていて行進にたまたま遭遇した70代くらいの白人男性は、1969年のウッドストックフェスティバルを彷彿させるとつぶやいた。愛と平和、反戦を主張するヒッピーや若者などが約40万人も集まった伝説的な野外コンサートだ。

 「若い連中は、世の中のことを何も分かっちゃいないんだ」と男性は吐き捨てるように言った。

新着

会員限定



ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ