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ニュースが取り上げない米デモの真実~立ち上がるアメリカの若者~

差別の仕組み

 アメリカの黒人が不満や憤りを感じているのが、彼らの社会進出を阻み続ける「システミック・レイシズム(システム化された人種差別)」である。

 これは、奴隷制や差別用語を使うといった明らかな差別とは違い、黒人など特定のグループが不利になるような制度や仕組みを指す。

 例えば、黒人が固まって住む地域はリスクが高いと指定される傾向にあり、そこに住む人々はローンを組めず、住環境は劣悪化していった。公立学校の主な財源は固定資産税であるため、貧しい地域と裕福な地域では教育の質に大きな差が出る。

 無意識の偏見もある。「アジア人は運転が下手」「黒人はスポーツが得意」などといった偏見を多くの人が持っている。こうした偏見が就職や警察の取締りなどで、判断に影響を与えてしまうという。

 「黒人は他の人の2倍の努力をしても半分の功績しか得られない」と高校で生徒会の会長を務め、アメリカフットボール部のキャプテンを務めていたジョーンズさんは群衆に説明した。「何かを余分に与えてくれとか、優遇してくれと求めているのではない。あなたたちと同じに扱ってくれと言っているだけなんです」

 ネイチャー誌に発表された研究によると、黒人は白人に比べて運転中に警察に止められる確率が高いが、運転手の人種が判別しづらい夜だとその差が小さくなるという。別の調査によると、黒人男性が警察に殺される確率は、白人男性の2.5倍にもなる。

 ジョーンズさんも、運転中に何の理由もなしに警官に止められたことがあると言う。免許証の提示を求められ、酔っていないか、なぜ運転しているのかなど執拗に聞かれたそうだ。

 子供の頃、父親はおもちゃの銃を買ってくれなかったという。黒人が銃を持っていると誤解されるのは危険だからだ。2014年には、オハイオ州の公園でエアガンで遊んでいた12歳の黒人の男の子が警官に射殺された。

 ピュー・リサーチ・センターの調査では、黒人の地元警察に対する信頼度は白人の半分程度しかない。自分たちの安全を守ってくれるはずの警察を脅威に感じている黒人は多いのである。

 「私は次の犠牲者になりたくない」と登壇した黒人女性が訴えた。「そして、私の弟にも次の犠牲者になってほしくないんです」

 アメリカ各地で広がっている抗議デモは、フロイドさんやテイラーさんが亡くなった怒りや悲しみだけで起きたのではない。その背景には、黒人が奴隷としてアメリカに連れてこられてから400年を経た現在でも、いまだに形を変えて続く差別の歴史があるのだ。にも関わらず、黒人の8割近くが、白人が自分たちがどれだけ差別を受けているか理解していないと感じている(イプソス社調査)。

 「もしあなた達が誰かにクズのように扱われたことがあるなら、あなたは黒人になったことがある」と登壇したグースという黒人男性が言った。「この国の黒人が400年間、感じてきた気持ちを味わったんだから」

 ただし、アメリカ人のシステミック・レイシズムに対する意見は保守とリベラル、黒人と白人で分かれている。

 8割近くのアメリカ人が、フロイドさんに膝を押し付けた警官が逮捕されるべきだと答える一方、警察組織が差別的だとは感じない保守派や白人も多い。

 調査会社Morning Consultによると、今回の抗議デモを支持する人は、民主党員では69%、共和党員では39%だ。フロイドさんの死は不幸だったが、一人の警官の誤った行為には過剰反応だと考えるアメリカ人も多い。

 トランプ政権で唯一、黒人の閣僚であるベン・カーソン住宅都市開発長官は、自分が子供の頃にはシステミック・レイシズムが確かに存在したが、現在のアメリカでは大きく生活には影響しないとCNNに語っている。

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