人種差別や警察暴力に対する抗議デモがアメリカを震撼させている。ニュースでは、大都市での衝突や違法行為が大きく取り上げられているが、それは現在のアメリカで起きている社会運動のワンシーンにすぎない。米メディアで現地の生の姿を取材してきた日本人ジャーナリストが、アメリカの郊外で起きている若者による草の根運動の熱気とその意義を解説する。(志村朋哉・在米ジャーナリスト)
ニューヨークやロサンゼルスの街中でヘルメットをかぶり、警棒を手にした警察と暴徒化した群衆が衝突。
こんなハリウッド映画のような光景をテレビで目にして、アメリカでは一体、何が起きているんだ、と思った日本人も多いと思う。
5月25日に、中西部のミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさん(46)が白人警官に膝で首を押さえつけられ死亡したことをきっかけに、その映像がソーシャルメディアで拡散し、全米規模のデモへと発展した。
建物や警察車両が燃やされ、カメラの目の前で堂々と略奪行為を行う者すらいた。警察は膨れ上がるデモに催涙ガスやゴム弾などで応戦。25以上の都市で夜間の外出禁止令が出された。
しかし、こうした混乱状況は、実はアメリカ全体で起きている事のわずか一部分を切り取ったにすぎない。全米放送のニュース番組などで記者が送られるのは、都市部の、しかも被害の大きい場所に限られる。視聴者は最もショッキングな映像だけを見せられるのだ。
広く見渡せば、一部が暴徒化しても不思議ではない何千人もの大規模なデモ以外に、数十人から1000人くらいの平和な抗議集会が、都市部だけでなく郊外の住宅街のような場所で毎日のように開かれている。
極左団体が裏で糸を引いているのではないかとの根拠なき主張もあるが、多くは10代から20代前半の普通の若者が、差別や不公平な社会構造を変えなくてはという使命感に突き動かされて自主的に立ち上げたものである。
「今起きているのは、若者によるポピュリスト運動」だと話すのは、筆者が暮らすカリフォルニア州オレンジ郡のチャップマン大学で政治学を教えるマイケル・ムーディアン教授。度重なる黒人への差別映像などを見て、我慢できなくなったのだと言う。
「抗議運動は、建国以来、アメリカを作り上げてきた伝統の一つ」だとムーディアン教授は話す。「女性の参政権運動、黒人の公民権運動、保守のティーパーティー運動など、右派や左派に関係なく、大抵の場合は小さな草の根活動から変革は始まります。やっかいで時間がかかるプロセスですが、この国の歴史で何度も起きてきました」
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