コロナ禍にもかかわらず、過去100年で最高となる投票率を記録したアメリカの大統領選挙。大手メディアがジョー・バイデン元副大統領の当確を発表しながらも、ドナルド・トランプ大統領が敗北を認めないという異例の事態となっている。今回は、ピューリッツァー賞に輝いたこともある米地方紙で記者として働いていた日本人ジャーナリストが、米国民の反応と選挙結果の分析、これからアメリカがどうなるのかを解説する。(志村朋哉・在米ジャーナリスト)
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選挙から4日がたった11月7日の朝8時半、カリフォルニア州ロングビーチ市の住宅街に歓声が響き渡った。
それを聞いたスーザン・ジェーコブスさん(57)は、すぐさまテレビをつけた。
「バイデン勝利!」
米3大テレビ局NBC、CBS、ABCに加えて、CNNとAP通信が、一斉に当選確実を発表。喜びが爆発したジェーコブスさんは、鍋とお玉を手に取りバルコニーに出て、力いっぱいにたたいて音を鳴らした。
「この4年間は、常にお腹が締め付けられているような気持ちだった」と大学職員として働くジェーコブスさんは話す。
「環境を愛し、科学を信じる一人の黒人女性として、トランプが何を言い出すか、どんな政策を実行するか、気が気ではありませんでした。たくさんの人が『もうたくさんだ!』と立ち上がってくれたと分かり、ほっとしました。これでまた、自分の国に誇りを感じられます」
トランプ氏が大統領になってから、「黒人に対する差別が表面化した」とジェーコブスさんは感じている。
「白人至上主義者たちが、偏見を隠さなくてもいいんだと思うようになった。国のトップであるトランプが、自分たちの味方だと思っているのでしょう」
バイデン支持者が8割以上を占めるような都会では、住民が街中で歌って踊って勝利を祝った。
しかし、もう一つのアメリカの反応は真逆だった。
「怒りと悲しみを感じる」と話すのは、保守的な南部テネシー州に住むトランプ支持者のパトリック・フュッセルさん(41)。
「素晴らしい4年間だったにもかかわらず、トランプ大統領が人種差別主義者、女性差別主義者、同性愛差別主義者だとレッテルを貼ろうとする人々がいます。彼の経済政策で、多くのアメリカ人が所得を増やし、人種マイノリティは貧困から抜け出しました。外交では、アメリカの地位を向上させました」
トランプ氏を支持する保守層は、バイデン氏が大統領になったら、社会主義政策が推し進められ、経済が停滞し、個人の自由が制限されると不安を感じている。選挙結果に疑問を感じる人も少なくない。選挙後には、各地でトランプ支持者が抗議デモを行っている。
「前回よりも1千万票以上も多く獲得し、ヒスパニックや黒人からの支持も伸ばしたのに、どうして負けるんでしょうか」とフュッセルさん。「バイデンは、ほとんど選挙活動もしなかったのに。不正がなかったことを証明してもらいたい」
ちなみに、筆者が暮らすリベラルと保守が拮抗する郊外では、バイデン当確のニュースが流れても、普段と変わらない週末の朝の静けさだった。
住んでいる場所によって、見える世界や体験が全く異なるのがアメリカだ。
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