大阪教育大学付属池田小学校の児童殺傷事件の遺族。1周忌前の会見で「なぜわが子が…」という解消されない疑問を訴えた(2002年6月7日、大阪市北区)【時事通信社】
「録画していたら真相どころか事件が解決しなかっただろう」(元警察幹部)ケースもある。被害者を恨んだ男から依頼された暴力団員2人が殺害と遺棄を実行した事件。裁判に出された証拠上は、3人が一緒に事情聴取を受けた後、暴力団員の1人が自供を始めたことになっている。
実際は依頼した男が最初に犯行を認めていた。しかし、男は報復を受ける危険があり、恐れていた。警察は「守る」と説得し、最初の供述は調書に残さなかったという。
一方、ある捜査幹部は「全面的な自白を得られなくても、有罪を立証するだけなら難しい事件は多くない」と認めつつ、事件の動機や背景の解明に果たす取り調べの重要性を強調する。
最近増えている動機のはっきりしない事件として、児童8人が殺害された大阪府の池田小事件、茨城県土浦市の連続殺傷事件を挙げ、「『自分がやった。早く死刑にしてくれ』だけで、遺族や社会が果たして納得するだろうか」と話し、全面録画では真相解明がさらに困難になると懸念する。
再発防止にも活用
詳しい供述が再発防止に役立ったこともある。連続女性暴行事件で逮捕された男は取り調べの終盤、どうやって女性が住む部屋を見分けたかを明かし、取調官を驚かせた。その一つが「玄関ドアの郵便受けからにおいをかぐ」。調書には残さなかった。
「洗いざらいしゃべって更生が期待できる容疑者が変な目で見られ、裁判で不利な心証を与えてしまう」と考えたからだ。その代わり、警察は事件を不動産業者も参加する防犯協議会で紹介。この地域ではその後、新築アパートのドアから新聞受けが消えたという。(了)
(肩書き・名称、年齢はいずれも2010年5月1日現在のものです)
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