転勤エレジー

初の実態調査

 会社勤めの人間にとって、遠方への転勤は一大事である。家庭があればまず、単身で赴任するか、家族を帯同するか、決めなければならない。そして家探しから引っ越しの手配、荷造りに諸手続き。掛かる労力も費用も膨大だ。転勤先では、新しい生活環境、新しい人間関係に適応していかなければならず、心的負担も決して軽くない。

 都内に本社があるメーカーに勤める夫、時事通信社記者の妻、2013年5月に生まれた長男から成るわが家は、10年の結婚から約5年で、2回の転勤を経験した。1回目は妻の転勤で、2回目は夫の転勤。いずれも単身赴任を選び、通算の単身生活は3年を超えている。

 特に2回目は、子どもが生まれてまだ9カ月のとき。育児休業から職場復帰を控えた時期でもあり、夫から福岡への異動を告げられたときは、頭の中が真っ白になった。家族で大移動し、福岡で子育てをするか。単身残り、乳児を抱えて仕事をするか。いずれも困難に感じられ悩んだ。

 結局後者を選び、両親の支援を受けながら仕事を続けている。昔の流行語に「亭主元気で留守がいい」なんてフレーズもあったが、やはり家族離れ離れの生活は不自然で不安定だ。福岡に戻って行く父に、名残惜しそうに小さな手を振る息子を見ながら、「これでいいのだろうか」と気持ちが揺れる。

 「仕事と家庭の両立」。それ自体、簡単ではないことは分かっているが、こと転勤という事態に直面し、厳しさを痛感させられている。日本には「転勤族」と称される人たちも多いが、子育てや介護、さまざまな局面で悩みを抱えているに違いない。

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 日本の企業では転勤が多いと言われる。少し古い統計になるが、厚生労働省が2004年に実施した「就労条件総合調査」よると、「転居を必要とする人事異動がある」と回答した企業の割合は、社員数1000人以上の企業で約9割。同300-999人では約8割、同100-299人でもほぼ半数に上った。耳を澄ませば、至るところで「転勤エレジー(哀歌)」が聞こえてくるのが日本という国だ。

 14年、安倍内閣で創設された「まち・ひと・しごと創生本部」は、働き方改革のテーマの一つとして「転勤問題」を取り上げることを決めた。同年12月に閣議決定した総合戦略では、「転勤の見直しを含む仕事と家庭が両立できる『働き方』を実現し、子育てや介護に関する環境を改善することが必要」と明記。国は15年度、史上初となる「転勤実態調査」に乗り出す。

 これから少し光が当たることになりそうな転勤問題。ここでは、30-40歳代の男女計4人の体験を紹介する。自分自身、あるいは配偶者の地方異動や海外赴任に直面し、仕事や家庭について何を考え、どのような価値観で対応したか。詳しく聞いてみた。(時事通信社・沼野容子)

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