元横綱日馬富士による暴行事件が表面化して以来、さまざまな報道や情報が飛び交っています。不明な点も多く、まだしばらく騒ぎが続きそうですが、一連の報道から生まれた誤解や疑問もあります。その中から、事件収束後にも大相撲を見るのなら知っておいた方がよさそうなポイントを幾つか取り上げました。
【Q】貴乃花親方が日本相撲協会に反発している理由として、2016年の役員選挙後の人事で巡業部長を命じられたことを挙げる報道があります。巡業部長は「閑職」で、貴乃花親方は「左遷」されたことに立腹しているというのですが、巡業部長はそんな役職なのですか。
【A】巡業部長は大変重要な役職です。相撲協会の事業は年6回の本場所と地方巡業が2本柱であり、その巡業を統括するのが巡業部長。巡業は相撲協会が勧進元と呼ばれる主催者に興行権を売って行い、巡業部には先々の契約、日程の編成から本番を成功させるまでたくさんの仕事があります。巡業は本場所にはない楽しみを提供して相撲に親しんでもらう場ですが、力士の鍛錬の場でもあり、しっかり稽古を積ませるのも巡業部長の役割です。
巡業は長い間に、興行形態や勧進元の主体、会場の環境などの面で変遷を経てきました。興行、観客サービス、鍛錬などの目的を同時に果たすのはなかなか難しく、改革の手腕を振るう余地もあるのです。
ではなぜ「閑職」や「左遷」といわれるのでしょう。相撲報道によく出てくる相撲協会の「執行部」とは、10人いる元力士の理事のうち理事長、ナンバー2の事業部長、指導普及部長、広報部長の4人を言います。この4人は役員室に詰め、生活指導部長、危機管理部長、総合企画部長なども兼務して常に協会運営全般のかじ取りをします。
執行部以外の理事の役職は巡業部長の他に、番付編成と勝負判定を預かる審判部長、地方3場所の集客や運営に当たる3人の地方場所部長、新弟子教育をする教習所長がいて、どれも重要ですが、執行部ではないため中枢から離れたポストだとの見方もあります。理事の職務分掌は理事長が決めますから、14年から執行部で総合企画部長などを務めていた貴乃花親方が16年から巡業部長になったのを、八角理事長(元横綱北勝海)が遠ざけたとする見方がありました。16年の理事長選で貴乃花親方が八角理事長に対抗して立候補したからだというわけです。
ただ、巡業部は勧進元という一般社会の人たちと接するわけですから、部長には元横綱・大関など知名度の高い親方が適任です。同時に常識的な振る舞いも求められ、大きな収入を扱う部署なので、公私ともお金については「身ぎれい」にしておく必要があります。
以前、巡業部長になって少し気落ちした理事がいましたが、先輩から「理事長を目指すなら、巡業部長をきちんと勤め上げれば評価が上がるし、自分が精通していれば、理事長になってから説得力のある指示ができる」と諭され、気を取り直して勤めたそうです。
最近は相撲人気とともに巡業の回数も回復しており、八角理事長と貴乃花親方が人事についてどんな思いがあったにせよ、巡業部長が要職であることは今後も変わりません。
新着
会員限定