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コラム:ちからびとの四季 (2016/8/9)
 スポーツ千夜一夜

大相撲の四季

 スポーツ記者になって日が浅かった頃、大相撲の取材現場は慣れるまで少し時間がかかった。力士や親方は威圧感があってとっつきにくいし、記者クラブにはこの道数十年などという記者もいて雑談すらはばかられるような空気。息苦しさを感じていたある日、たまたま杯を交わす機会があったベテラン記者から聞いた、ほろ酔い加減の言葉は今も忘れることなく心に残っている。

「大相撲には四季があってね、それがいい。そこには力士の人生もある。だから人は相撲が好きになるんだよ」

 最初はピンとこなかったが、取材経験を積むうちになるほどと思った。「四季」とは文字通り、本場所や巡業など季節的なイベントを指す。そしてもう一つは、力士が成長し、やがて衰えていく様子を意味している。新芽のように頼りなかった新弟子が関取となって力士人生の夏を迎え、その後は徐々に日差しが弱まっていく。秋の夕日が沈んだ先にあるものは引退だ。20年も現役でいられる人はそう多くはないから、ファンがひいき力士を見つけて声援を送れるのは、せいぜい短い季節の二つかそこらということになる。

 7月31日に61歳の若さで亡くなった元横綱千代の富士の九重親方(本名秋元貢)の場合、私は「夏」の時期に取材で接することができた。

 千代の富士は身長183センチで、体重は120キロ台。現役力士ならスタイルのいい遠藤が同じ身長だが、体重は153キロもある。いかに千代の富士は小柄だったかと、あらためて驚かされる。体格のハンデは、よろいのような筋肉と瞬発力、そして無類の気の強さで補った。

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