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コラム:「北極男」の夏休み(2015/9/9)
 スポーツ千夜一夜

 小学生の頃、自分がちょっと成長したように思えた出来事は、たいがい夏休み中に起きたものだった。初めて50メートルを泳げた夏。初めて山登りをした夏。初めて親の故郷に一人で旅行をした夏。冒険家の荻田泰永さん(38)も毎年8月、公募で集めた小学生にとびきりの夏をプレゼントしている。キャンプをしながら100マイル(約160キロ)を歩くというものだ。

 「100マイル・アドベンチャー」と名付けたこのイベントは2012年に始めた。4回目の今年は、小学6年生の男女計6人とともに広島の厳島神社を出発し、11日間かけて島根の出雲大社まで約170キロを歩き切った。

 「子どもたちの持っている底知れない能力を今回も感じました」と荻田さん。「スタート時にはみんな不安そうで、本当に歩けるの? と自信もないまま始めますが、一人一人にあった対応をしてやることで、みんなが100マイルを歩き切ることができるんです」

 参加者の中には片方の目が不自由な子もいた。遠近感がつかみにくいせいか、初日から足の痛みを訴えて心配したという。

 「でも本人のやる気がすごくて、テーピングで足を固定しながら『僕歩きます!』と言って歩き続けました。途中から痛みも治まり、体も慣れてきて、ゴールの時は余裕の表情で他の子たちと同じに歩いていました」

 強烈な太陽の光と、心地よい緑陰の香り。風の音、大汗をかいて飲む水のおいしさ。子どもたちは五感を全開にして「世界」を吸収していく。

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