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コラム:ファウルボールを考える (2015/6/3)
 スポーツ千夜一夜

 プロ野球を記者席で観戦していると、ときどきファウルボールが飛び込んできた。記者席は通常、バックネット裏の最上段など比較的安全な場所にあるのだが、たまに飛んでくると、それはだいたい同じエリア。どうもリスクの高い席というものは存在するようで、それ以前にも何度か難を逃れている記者が「またか…」と苦笑いしていたことを思い出す。

 うまく身をかわした記者は何となく楽しそうな顔だ。しかし硬球に直撃されたらただではすまない。高校時代、野球部にいた私は二塁に帰塁した際にけん制球が当たって骨盤を骨折した経験がある。下にスライディングパンツをはいていたのに当たり所が悪かったため、ひびが入ったのだ。肉の薄い指や顔なら骨は簡単に折れるし、目にでも当たれば大けがにつながる。

 2010年に札幌ドームで日本ハム戦を観戦していた女性がファウルボールで右目を失明した事故をめぐる訴訟で、札幌地裁はこの春、同球団や札幌市などに約4200万円の支払いを命じる判決を下した。球団側は控訴。けがをした女性の苦しみを思わない人はいないのに、賠償責任を認めるかどうかとなると、話は複雑になってくる。

 ここ10年ほどプロ野球ではグラウンドにせり出した形のフィールドシートが増え、防球ネットの一部を外す球場も出てきた。臨場感を重視しているためで、こうした席は選手と直接触れ合うこともできるので人気がある。もちろん打球に対してオープンになるから危険度は増すのだが、その事実を常に意識しながら身構えて観戦するのも難しい。人は誰でも「自分に限って大きな事故など…」と考えがちだから、今後も同種の事故が起こる可能性は小さくないと思う。

 それでも日本の球場は米国に比べれば安全と言えるのだろう。米国の球場はファウルグラウンドが狭く、バックネット以外には防球ネットがほとんどない。大リーグでは毎年1700人以上の観客がファウルボールなどで負傷するというデータもあり、その数は打者が受ける死球を上回る。

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