日本プロ野球機構(NPB)が2013年シーズンの公式戦で使用しているボール。加藤良三コミッショナーのサインとミズノのロゴがプリントされている。【時事通信社】
プロ野球の統一球の問題は、いろんな意味で後味の悪さが残った。加藤良三コミッショナーが組織のトップとして管理責任を厳しく問われ、最後は嫌気が差したように辞任。加藤さんの肩を持つわけではないが、そのような幕引きへと流れを作ったことは、果たして野球界にとって最良の選択だったのか。そんな疑問が今も消えない。
この問題は一言でいえば、ボールの飛びやすさを調整した際に、はっきりと世間に伝えておけばよかったという話。たとえばコミッショナー事務局があらかじめ、こんな具合に潔く公表していれば騒ぎになるはずはなかった。
「2011年から全ての球団が『統一球』を使用してきましたが、検査した結果、反発係数が基準数値の下限より低かったことが分かりました。来季はもう少し飛びやすいボールにしますので、ファンのみなさんはお楽しみに」
ボールの扱いを12球団から一任されていた下田邦夫事務局長(当時)にしてみれば、反発力を調整して基準数値内に戻すのは言わずもがなの作業だったのだろう。しかし、製造元に口止めしたのはまずい。私もそれを知ったときは「なぜ正直に言わなかったのか」と怒りを覚えた。
とはいえ、少し角度を変えて考えてみてもいいと思う。まず、調整の事実を隠し通した場合に守れたものがあったとしても、それは関係者のメンツ程度だということ。日本プロ野球選手会が「労働条件の変更に当たる」と批判した理屈も分かるが、特定の選手やチームに利益をもたらすようなものでもなかった。全日本柔道連盟が選手強化の助成金を不正に受給していた問題などと比べれば社会的な悪質性は薄く、「不祥事」というよりは「不手際」に近かったのではないか。
バックナンバー
コラム:番長の哀しき怒り
(16/03/07)コラム:遺影から聞こえた声
(16/01/12)コラム:スポーツがある日常
(15/12/24)コラム:ハイブリッドの強打者
(15/11/09)コラム:「北極男」の夏休み
(15/09/09)コラム:相撲ブームの功労者
(15/07/10)コラム:ファウルボールを考える
(15/06/03)コラム:マエケンの心意気
(15/04/30)コラム:野球の街に幸あれ
(15/03/25)コラム:白鵬の孤独
(15/02/19)コラム:職業冒険家への道
(14/12/26)コラム:タカハシという一等星
(14/11/19)コラム:仁川随想
(14/10/20)コラム:天賦の才は惜しみなく
(14/08/07)コラム:還暦、地球を遊ぶ
(14/06/30)コラム:犬と行く我が道
(14/05/11)コラム:綱とり成って
(14/04/01)コラム:心のベストスコア
(14/03/05)コラム:アーリー・デイズ
(14/01/30)コラム:プロ野球は今、幸せか
(13/12/27)コラム:銀盤と五線譜
(13/11/27)コラム:「ハナ」と「智多星」
(13/10/29)コラム:「逆回転」できないから
(13/10/16)コラム:プライバシーの切れ端
(13/09/04)コラム:稲妻のサイクル
(13/08/20)コラム:名峰に恥じぬよう
(13/07/22)コラム:希望を見いだす才能
(13/06/21)コラム:数字を超えるもの
(13/05/14)コラム:偽りの構図
(13/04/09)コラム:情熱と鉄拳の間に
(13/02/18)コラム:ゴジラの引力
(13/01/22)コラム:道なき道を
(12/12/26)コラム:ディナミタの執念
(12/12/18)コラム:逃げない人
(12/11/29)コラム:大国の自負あるなら
(12/10/30)コラム:夢を分け合う
(12/09/20)コラム:銀色のメッセージ
(12/08/24)コラム:ボルトとルイス
(12/08/20)コラム:快投ラッシュ
(12/07/30)コラム:マリアの純情
(12/06/22)コラム:遊びをせんとや
(12/05/25)コラム:プライドの輪郭
(12/04/18)コラム:87歳の意志
(12/03/19)コラム:17年前の光
(12/03/01)コラム:巨人のDNA
(12/01/24)コラム:佐伯の教え
(11/12/27)コラム:スポーツの焦点距離
(11/12/27)コラム:オレのダンディズム
(11/11/29)コラム:肩の荷を下ろして
(11/10/28)コラム:続く長いトンネル
(11/10/06)コラム:明日があるさ山がある
(11/09/30)コラム:「北京の子」たちよ
(11/08/29)コラム:不幸せな関係
(11/08/29)コラム:松田直樹選手の死に寄せて
(11/08/04)コラム:美技を生む手順
(11/07/29)コラム:自由に飛ぶ
(11/06/30)コラム:「ウオツカと日本酒」
(11/05/26)コラム:スポーツというエンジン
(11/04/26)コラム:沈黙の春
(11/03/29)コラム:八百長、許しはしないが
(11/03/08)コラム:奇跡と不信の物語
(11/02/16)コラム:悩ましきポスティング
(10/12/24)コラム:野球の華
(10/12/02)コラム:夢を見る力
(10/10/12)コラム:熱狂と霧の中で
(10/08/20)コラム:裁きの一線
(10/07/15)コラム:快楽的人体実験
(10/05/31)コラム:変化と完ぺきと
(10/03/23)コラム:いちずの行方
(10/02/26)コラム:球道即人道
(10/02/15)コラム:懐の深さは十分か
(10/01/27)コラム:ヒーローのいる風景
(09/12/24)コラム:あえて故郷に背を向ける
(09/11/25)コラム:ボビーのあくび、ノムさんのぼやき
(09/11/09)コラム:ボラの意地
(09/10/08)コラム:絶対、負けられぬ戦い
(09/09/29)コラム:長距離砲の晩夏
(09/09/01)コラム:それぞれの夏山
(09/08/11)コラム:46歳の覚悟と潔さ
(09/07/02)コラム:名門の消滅に思う
(09/06/08)コラム:「パトロン」と「ギャラリー」
(09/04/17)コラム:語れよ、野球選手
(09/04/06)コラム:藤川は外れ、イチローは残った
(09/04/01)コラム:パイオニアになりそこねた男
(09/03/09)コラム:母にぶたれたプロ野球選手
(09/02/13)コラム:夢の扉が開いた
(09/02/10)コラム:シーズン終了
(08/12/14)コラム:頑固な石川を見た
(08/11/04)新着
会員限定