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コラム:銀盤と五線譜
 スポーツ千夜一夜

2004年のNHK杯で1位になった荒川静香(右)と2位安藤美姫(名古屋市総合体育館)(2004年11月06日)【時事通信社】

 テレビのスポーツ中継の中ではNHKの落ち着きのある実況が好きなのだが、先日BSで放送されたフィギュアスケートのNHK杯は滑走中のしゃべりが全くなく、かえって映像の緊張感が増していたように見えた。長年のフィギュアスケートのファンである家人も、エッジの音までよく聞こえる中継を見ながら「こういうのがいいなあ」などと喜んでいた。もちろんジャンプやステップに関する解説が簡潔で適切に入れば観戦の手助けにはなるが、技術要素と音楽の調和という部分をじっくり観察したいような場合には、静かな放送の方がありがたい。

 そう感じるのも、日本のトップ選手の表現力が、高いレベルに達しているからだと思う。

 私が初めてフィギュアスケートの取材をしたのは、1980年代の中盤。技術の良し悪しなど分からない駆け出しの記者だったが、強く感じたことが一つあった。多くの日本選手にとって音楽はBGMの域を出ていなかったということである。一つ一つの技をこなすことに追われ、曲のリズムやムードは置き去りになっていた。その頃、女子で世界のトップにいたのはカタリナ・ビット(東ドイツ)。初めて彼女の演技を見たときには、容姿の美しさはもちろん、音楽に合った優雅で正確なスケートに圧倒された記憶がある。

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