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コラム:プライバシーの切れ端
 スポーツ千夜一夜

出産を公表した後、初めてアイスショーに登場した安藤美姫(2013/07/06、福岡市のマリンメッセ福岡)【時事通信社】

 取材現場にいたころ、ときどきぶしつけな質問をしてしまい、「逆の立場なら嫌な気分になるだろうな」と反省したものだった。そのせいか今でもテレビなどを見ていると、意識が「質問される側」に回っていることが多い。さして重要とも思えないことで芸能人が根掘り葉掘りやられている様子などを目にしたときは、気の毒で居心地が悪くなってくる。家人と「ほっといてあげられないのかね」と文句を言いながら苦いお茶をすすることもしばしばである。

 最近ではフィギュアスケートの安藤美姫選手をめぐる過熱報道がそうだった。未婚のまま女児を出産していたことをテレビ番組で公表した際、父親の名を明かさなかったため世間が騒がしくなった。確かにびっくりする話ではあるが、名を出すかどうかは全くのプライベートな問題。とにかく彼女は来年のソチ五輪を目指して競技に集中するためには、女児の父が誰かを口にしないのがベストと判断したのである。それがアスリートとしての結論であり、全てだと思う。

 当初の騒ぎは尋常ではなかった。ある週刊誌は、ホームページで安藤選手に関するアンケートを試みた。「出産を支持しますか」「子育てしながら五輪を目指すことに賛成ですか」。そんな意見を集めたところで誰の得にもなりそうもないし、今後、誰かがありがたく参考にするとも思えない。そもそも、自分の身内の出産について世間が「賛成だ」「反対だ」とやり合っている様子など想像するだけでもぞっとする。結局、抗議が殺到してアンケートは中止に追い込まれ、編集責任者が謝罪文を出す結果となったのだが、ただの「おせっかい」ではすまない後味の悪さが残った。

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