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コラム:希望を見いだす才能(2013/6/21)
 スポーツ千夜一夜

 「華麗なるギャツビー」が久々に映画化され、懐かしくなって映画館に足を運んだ。出征中に資産家の妻となってしまった昔の恋人を取り戻そうとするギャツビー。ひたすら夢を信じた主人公の情熱を描いた美しくも哀しい物語は、フィッツジェラルドの最高傑作として知られる。

 この小説を初めて読んだのは学生時代。文学部の友人の一人は「ギャツビーに共感できる人は、心の若さを失っていない人なんだよ」と語っていた。実は冒険家の三浦雄一郎さんが5月に史上最高齢の80歳でエベレスト登頂を果たしたとき、反射的に思い出したのが友人のこの言葉だった。もちろん三浦さんのエベレストはギャツビーの物語とは何の関係もないけれど、分別臭く「年寄りがそんなに頑張ってどうするの」などと片づける人には、この快挙が持つ豊潤な意味を理解できないように思えたのだ。

 かつて富士山やエベレストの8000メートル付近からスキーで滑り降りるなど、世界を何度も驚かせてきた三浦さんも、ずっと超人的だったわけではない。1985年に7大陸最高峰でのスキー滑降を達成した後は、不摂生が招いた肥満や狭心症、糖尿病などに苦しめられている。

 功なり名遂げ、還暦も過ぎた身としては医者の忠告に耳を傾けてのんびり生きる道もあった。しかし三浦さんは、「それではつまらなかった」と言う。一念発起して選んだのが、エベレストの頂へと続く遥かな道だった。幼稚園児でも登るような裏山にさえ登れなくなっていた体でトレーニングを開始。両足首に数キロの重りをつけ、荷を詰めたザックを背に街を歩き回り、5年ほどかけて体を立て直した。70歳で初登頂を果たし、次が75歳。そして今回、日本人男性の平均寿命を上回る80歳で3度目の頂に立った。

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