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コラム:偽りの構図
 スポーツ千夜一夜

ツール・ド・フランスの優勝トロフィーを掲げるアームストロング(1999/07/25)【AFP=時事】

 スポーツ関係で好きな本はあるかと問われたら、「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」(講談社)は真っ先に挙げたい一冊だった。壮絶な闘病の末に癌に勝った男がツール・ド・フランス覇者となるまでの軌跡を描いたもので、原書は発売と同時に全米ベストセラーになっている。これを読んで以来、主人公のランス・アームストロングは私の中で偉大な輝きを放っていただけに、あの栄光がドーピング(禁止薬物使用)の力を借りたものだと分かったときは、裏切りにあったような悲しさを覚えた。

 2000年代初頭からアームストロングのドーピングを疑う声はあった。彼は「検査を何百回受けても陽性反応は出ていない」と反論し続けたが、やがて、かつてのチームメートらが暴露を開始。米国反ドーピング機関(USADA)が調査に乗り出して不正の実態が明るみとなり、昨年8月、ツール・ド・フランス7連覇などのタイトル剥奪と永久追放を宣告された。

 アームストロングがようやく自身の不正を認めたのは今年1月。あまりにも遅い告白に、怒りを新たにした人も多かったことだろう。しかし私は一方で、「自分がアームストロングだったら」と想像せずにいられなかった。同じ過ちは犯さなかったと言い切れる自信がないのである。

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