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コラム:ゴジラの引力
 スポーツ千夜一夜

巨人選手時代の王貞治(左)、長嶋茂雄両選手。二人とも、どの言葉を記事にしようかと悩むくらい記者にたくさん話をしてくれた【時事通信社】

 スポーツ中継で長く活躍した元ニッポン放送アナウンサーの深澤弘さん(77)と昨年、お話しする機会があった。深澤さんは1960年代からプロ野球で計1600試合以上も実況を担当。半世紀近くグラウンドの内と外を見てきた放送界の第一人者だが、最近少し気がかりなことがあるとおっしゃっていた。
 アナウンサーが放送中に紹介する選手のこぼれ話を聴いていて「昔なら、この程度の話はボツにしていたな」と思うことがあるのだという。

 「テレビも一生懸命に放送を盛り上げようとするけれど、非常に苦労していますね。素材がないから物語ができない。選手の話す言葉も、記事にすれば3行くらいで終わりそうな内容のものが多い。昔は長嶋さんも王さんも、記者がどの言葉を記事にしようかと悩むくらいにたくさん話してくれたものです。同時に、若い記者が近寄れないほどのオーラもあった。人間として、私たちをとろけさせるものがありましたね。だから尊敬されたし、記者も野球を勉強しなければいけないというムードになった」

 今は逆に、人気球団の中心選手ほど口が重い。世の中全体が「あら探し」に忙しく、へたな発言をするとインターネットで集中砲火を浴びるからだろうか。特にヒーローインタビューなどは無難な発言とお決まりのフレーズばかりだ。これでお客さんは満足できるのかな、と私も不思議に思うことがある。

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