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コラム:逃げない人(2012/11/29)
 スポーツ千夜一夜

 誰かを思い浮かべるとき、特定の風景がセットになって出てくることが多い。今季限りで引退したプロ野球ソフトバンクの小久保裕紀内野手の場合、福岡ヤフードームの薄暗い通路がその背景となって浮かんでくる。

 どこかの球団を継続的に取材していると、1年のうち何日かはひどく重い空気に包まれてしまう。長い連敗がまた一つ伸びたり、優勝が遠ざかる痛恨の一敗を喫したりといったケースだ。そんなとき多くの選手は口数も少なく逃げるように帰途に就くのだが、小久保は違った。薄暗く長い通路の先にある駐車場にたどり着くまで、ゆっくり歩きながら質問に答える。試合の反省点や打ち損ねた球のこと、あしたはどう立て直すかという心構えなど。そして運転席に乗り込み、律儀にウインドーを開けてからアクセルを踏む。

 特に人気球団には、木で鼻をくくったような受け答えばかりの選手や、優等生的な発言しかしない人が多い。できないのか、する必要などないと思っているのか。いずれにしても、多くのファンがいるスポーツという文化の担い手として好ましい態度ではない。その対極に位置するのが小久保という選手で、考えをはっきり表現できる選手だった。

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