会員限定記事会員限定記事

コラム:大国の自負あるなら
 スポーツ千夜一夜

都内で開かれた東レ・パンパシフィック・オープンに出場した中国の李娜(2012/09/25)

 日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化で日中間の緊張が高まった9月、東京で開催された女子テニスの東レ・パンパシフィック・オープンに中国のスター選手、李娜(30)が出場して母国の人々から激しく批判された。中国国内のインターネット上に「漢奸(売国奴)」などと罵倒する声が殺到し、彼女の著書を燃やした人もいたという。インターネットは匿名性が高いという特性上、過熱しやすく暴走しやすい。そう分かってはいても、スポーツに対する彼我の認識に相当な隔たりがある現実には改めて驚かされる。

 来日後の記者会見で、出場に踏み切った理由を問われた李娜は、「この大会に出ることは去年から決まっていた」と答えるだけにとどめた。もともと「国のためにテニスをしているわけではない」と公言するほど強い独立心を持っている。言いたいこともあっただろう。しかし、それを口にすれば、火に油を注ぐことは目に見えていた。

 中国共産党機関紙・人民日報のサイト「人民網」も李娜の批判記事を掲載していた。「スポーツに国境はなく、政治に影響されるべきではない」と前置きしながら、一方では「李娜は国のために声を上げることもせず、個人の名誉のために日本へ行った」「人民から愛される有名人には、国の主権と名誉を守る姿勢を見せる責任がある」と主張。李娜を罵倒した市民をたしなめるメディアも一部にはあったようだが、スポーツが今なお政治の制約から逃れられない様子がはっきり分かる。

バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ