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コラム:遊びをせんとや
 スポーツ千夜一夜

電気自動車で世界旅行を続けるドゥゴンさんとギーさん(左がグザビエ・ドゥゴンさん、右がアントナン・ギーさん。東京・目黒区祐天寺で、ドゥゴンさん提供、撮影=2012年5月16日)

 大学3年の夏にオートバイで本州一周の旅をしたことがあった。相棒のSは私と同じ埼玉県に住んでいたが、祖母のいる京都・丹後で少し釣りがしたいと言い、1週間ほど早く出発した。今から30年近い昔のことで、もちろん携帯電話はない。見知らぬ土地でSと合流するには「有名な場所」で待ち合わせるしかなく、「8月16日の午後2時、天橋立で会おう」とだけ約束して旅は始まった。

 日々の行き先は決めず、いい浜辺をみつけると走るのをやめてテントを張った。夏の日本海が鏡のように静かなことを知り、夜の海に飛び込んでは湧きあがる夜光虫に驚いた。コンビニエンスストアなどない時代。どこの町にも地方性と豊かな表情があり、人は今よりのんびりしていた。外に飛び出して目を見開けば、世界は限りなく広いことを知った夏だった。

 毎晩、テントの中でSといろんな話をした。「就職したら、こういう旅はもうできないだろうな」。そう言って、寂しい気分になったこともあった。

 突然こんな昔話を思い出したのは、先日、ユニークなフランスの青年に会ったからだ。グザビエ・ドゥゴン君(27)とアントナン・ギー君(28)。彼らは会社勤めの身だが長期休職し、小さな電気自動車で世界旅行を続けている。1日に走れる距離は150キロ程度。毎日、民家などのコンセントで充電させてもらいながら進む旅は、何かのテレビ番組のようでもある。

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