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コラム:プライドの輪郭
 スポーツ千夜一夜

マリナーズ戦で先発したダルビッシュ。4月9日、米テキサス州アーリントン【AFP=時事】

 林家正楽さんの紙切り芸が好きで、いつも出来上がりの瞬間はわくわくする。着物姿の女性などレトロな情緒が漂う作品の美しさは言うまでもなく、お客さんのどんな注文にも手際よく応える臨機応変ぶりには、ただただ驚くばかりだ。

 最近は「スカイツリー」という注文をよく聞く。しかし、タワーの形を再現するだけでは面白くないから、遠い町並みの中にすっくとそびえる姿を、親子連れが眺めている風景などを切り出す。お題そのものにとらわれず、周辺のイメージなども巧みに織り込んだ作品はまさに絶品だ。

 先日、浅草演芸ホールの寄席で、客席の女性から「ダルビッシュ」というリクエストが出た。正楽さんがハサミを走らせる数分の間、私は固唾をのんで待っていたのだが、出来上がりは案外オーソドックス。ぐいと右腕を引いてボールを投げようとする全身像だった。

 帽子から飛び出した髪、長い手足という特徴があるからダルビッシュだと分かるけれど、それがなかったら、名人の正楽さんといえども手を焼くお題なのかもしれない。作品に取り込む周辺のイメージが、まだ十分にそろっていないという事情もあるのだろう。

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