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コラム:美技を生む手順
 スポーツ千夜一夜

ワールドカップ初優勝を果たし、日本中を歓喜させたサッカー女子日本代表の「なでしこジャパン」。ビッグイベントで日本勢の活躍の現場に立ち会えることはマスコミに身を置く人間として実に貴重な経験となる。しかし、記者稼業が「楽しい」と感じるのは、そんなときばかりではなく、選手や関係者から「いい話」を聞くことができたときだったりもする=2011年7月17日、ドイツ・フランクフルト【AFP=時事】

 プロ野球もJリーグもただで見られるなんていいですねぇ。有名人に会ってインタビューなんかもできるんでしょう。楽しそうだなあ。

 スポーツ記者をしていると、そう言われることがよくあり、そのたびに返事に窮して「えぇ、まぁ」などと曖昧に答えることが多い。

 正直なところ、取材現場は何かと気をもむことばかりで、「楽しい」と感じることはあまりないのだ。話を聞きたい選手がロッカーから出てこないとか、記者会見がなかなか始まらないとかは日常茶飯事。そうなると原稿は大急ぎで書かなければならなくなる。腕時計をちらちら見ながら脂汗も出てくる。始末が悪いのは、その日書いた原稿を夜中に思い出したときだ。数字や人名を誤って書いたような気がして、寝床から飛び起きてパソコンを開いたこともあった。画面が立ち上がるまで、ドキドキしながら待つ身の情けなさ…。まとまりの悪い記事を書いた後などは食欲も失せるし、自分がうまく書き切れなかったのに、どこかの記者がきっちりまとめていたとなれば、さらに深く落ち込む。

 取材現場でかく恥や苦労は歳月の力も借りて「いい経験」に変えるしかないのだが、まれに、その場で「楽しい」と感じることもある。それは歴史的な瞬間を目撃したようなケースではなくて(なぜなら、そんなときはたいがい動転していて、原稿をどう書くかで頭の中がいっぱいだから)、「いい話」を聞けた時なのである。

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