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コラム:沈黙の春
 スポーツ千夜一夜

サッカーの欧州チャンピオンズリーグ(CL)で8強入りを決めたインテル・ミラノの長友佑都は、「心は一つ。一人じゃない。みんながいる。You’ll never walk alone」と書かれた日の丸を掲げた(2011年3月15日、ドイツ・ミュンヘン)【EPA=時事】

 鉛色の波が漁船を転覆させ、生き物みたいにうねりながら堤防を乗り越えていく。土煙を巻き上げて田畑をえぐり、家屋を根こそぎ運び去る。テレビが映し出す地獄絵に言葉を失いながら、私はぼんやりと遠い夏の日を思い出していた。

 もう40年近い昔のこと。せみ時雨の中、川の向こう岸を目がけ、ひたすら石を投げた。リトルリーグの一員だった私は、少しでも強い球を投げられるようになりたくて、その夏、石を投げることを日課にしていた。夜明け前には、いとこのK兄ちゃんと林でカブトムシをつかまえた。トウモロコシ畑が広がっていた。福島県にある父の生家で過ごした夏休みの記憶の風景である。

 東日本を襲った巨大地震は、その町(現南相馬市)にも甚大な被害をもたらした。私の少年時代の思い出の地に深い爪痕を残し、宮城や岩手、福島でたくさんの家と財産、命を奪った。

 地震が発生した3月11日、各種スポーツイベントの中止が次々と決まり、時事通信社の運動部はその確認に追われた。深夜に仕事場を出た私は、埼玉の自宅まで5時間かけて歩いて帰った。終夜運行のはずの地下鉄は、入場制限で乗り継ぐことができず、タクシーもつかまらなかった。歩きながら携帯ラジオを聴き続けたものの、被災地の情報は断片的なものが多く、途中から足の痛みのほうが気になりはじめた。

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