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コラム:八百長、許しはしないが
 スポーツ千夜一夜

朝稽古で相手にぶつかる力士(2010/07/02、愛知・扶桑町の境川部屋宿舎)【時事通信社】

 先日ラジオを聴いていたら、永六輔さんがこんな趣旨のことを話していた。「八百長が悪いんじゃなくて、システムが悪いんです」。大相撲の八百長問題についてゲストとおしゃべりしていた中での一言だった。

 人間は過ちを犯す生き物だし、悪いと知りながら、あるいはやむにやまれずルールを破ることもある。しかし、もしも恒常的に不正に走らせてしまう何かがあるとしたら、その構造こそが問題だ。永さんの発言は少々大胆で誤解を招く恐れもあるが、決して八百長を容認しているわけではなく、問題点をシンプルに突いている。

 私も若い頃、大相撲の取材をしていて、時々不自然な相撲があると感じた。こうしたおかしな取組をどう思うか、あるベテランのアナウンサーに意見を聞いたことがあった。すると「答えにはならないけれどね」と言いながら、次のような経験談を語ってくれた。彼はあちこちで講演をしていて、しばしば質疑応答で「八百長って本当にあるんですか」と聞かれる。そこで否定も肯定もせず、思うところを話しながら、最後はこう問い返すようにしていたという。

 「でもね、そういう目で見ていると、何でも面白くなくなっちゃうんじゃないですか?」

 そう言うと、講演会場の空気はほっと和らぎ、客席に笑みが広がるということだった。

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