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コラム:奇跡と不信の物語
 スポーツ千夜一夜

2010年1月、イタリアのテレビショーに出演した際のタイソン【AFP=時事】

 ここ何年もずっと、「スーパースター」と呼ばれる存在が少なくなったと感じていた。彼らが備えているものをイメージすれば、まず圧倒的な力があり、世間の耳目を集める強い個性も欠かせない。そこに神秘性とでもいうか、日常からかけ離れた何かが加わると、スターは完全なスーパースターになるのだと思う。

 こうした条件はそろいにくい時代なのだ。インターネットがあらゆる情報へのアクセスを容易にしたことで、スターが神秘性を保つことは困難になった。1980年代に写真週刊誌が隆盛を極めたころは、芸能人やスポーツ選手の素行が次々と暴かれ、彼らが雲の上から引きずり降ろされる過程を見た気がしたものだが、最近はブログやツイッターもあり、有名人が競うように日常をさらけ出している。かつて庶民がスターの情報を仕入れるには専門雑誌などを読むしかなかったのだから、天と地ほどの開きと言うしかない。

 元統一ヘビー級世界王者のマイク・タイソンは、神話の世界から地上に落ちたスーパースターだった。昨年12月にタイソンの国際ボクシング殿堂入りが発表されたとき、彼がたどった栄光と没落の軌跡や時代の空気を思い出し、ほろ苦い味がこみ上げるのを感じた。

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