会員限定記事会員限定記事

コラム:野球の華
 スポーツ千夜一夜

日本シリーズ第6戦の、延長15回引き分けを示すスコアボード。試合時間はシリーズ最長の5時間43分だった(2010/11/06、ナゴヤドーム)【時事通信社】

 大先輩の記者が「野球は戦争」と力説していたのを思い出した。塁という「とりで」を一つずつ突破し、命からがら仲間の待つホームへ生還する。掘り下げた構造のベンチはダグアウトと呼ばれ、退避壕の意味もある。南北戦争の時代、北軍兵士に親しまれたこのゲームは、随所に戦争を思わせる要素を残しながら平和でスリリングなスポーツとなって広まった。

 今年の日本シリーズは、そのダグアウトまでの道のりが実に遠く、険しかった。第4戦、ロッテは延長十回に1死満塁のサヨナラ機を迎えた。しかし福浦の打球は不運にも三塁ライナーとなって併殺に終わる。好機を逃した後には不思議とピンチが来るもので、直後の十一回に1点を失ってこの試合を落とした。そして第6戦は史上最長の5時間43分を戦い、ドロー。再び延長戦にもつれ込んだ第7戦は、ロッテが十二回に1点を奪い、4勝2敗1分けで「日本一」となった。

 パ・リーグ3位のロッテによる下克上のドラマは、クライマックスシリーズ制度の矛盾を改めて思い出させもしたが、試合が面白かったことで救われた。あれだけじれったい展開になっても「ふがいなさ」というものはない。野球の神様のいたずらに翻弄(ほんろう)されながらも、懸命に先の塁を目指す選手の姿が印象としては数段上回っている。それは1点をめぐる攻防の緊張感から生まれたものであり、むやみに本塁打が飛び交わなかったからこその展開だった。

バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ