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コラム:熱狂と霧の中で
 スポーツ千夜一夜

第17ステージで、前に出るシュレック(右)と追うコンタドール【AFP=時事】

 夏の深夜、テレビで「ツール・ド・フランス」に見入ってしまった。少し前まではサッカー・ワールドカップ南アフリカ大会で観客が吹き鳴らす「ブブゼラ」の音が電波に乗って世界中にまき散らされていたが、それとは趣の違う、静かなる熱狂とでもいうべきものに引きつけられた。

 7月22日、世界最大の自転車ロードレースは重要な局面を迎えていた。ピレネー山脈を舞台にした第17ステージ(174キロ)。トゥルマレ峠のゴールまで残り8・5キロの地点で、25歳のアンディ・シュレック(ルクセンブルク)と、連覇を目指す27歳のアルベルト・コンタドール(スペイン)の一騎打ちが始まった。

 サドルから腰を浮かし、自転車を左右に振るダンシングで懸命に登っていく。道は狭く、沿道の観客がコースにあふれている。その人垣をかき分けるように2人は走った。ファンは声援と拍手で選手を励まし、自転車を後押しするかのように腕を振り回す。興奮した観客が次から次へと自転車を追いかけて走り出す。日本なら大人が走るのは泥棒を追いかけるようなときに限られそうだが、伝統のイベントでは標高2000メートルの峠道を大人が真剣な顔で走っていた。

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