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コラム:裁きの一線
 スポーツ千夜一夜

完全試合を逃したガララーガ投手【AFP=時事】

 わたしの親友の奥さんは涙もろい人で、特にスポーツの開会式を見ると泣けてしかたないという。甲子園でもオリンピックでも、開会式の選手たちを見ると、そこにたどり着くまで彼らが積み重ねた長い鍛錬の日々を思ってしまい、その瞬間に涙腺が全開になるそうだ。彼女はかつて卓球の実業団リーグでプレーしたほどの人だから、スポーツ選手の心情はよく分かるのだろう。

 しかし今回の一件だけは、誰も想像が及ばないほど次元の違う話だった。米大リーグ、タイガースのアルマンド・ガララーガ投手(28)とジム・ジョイス審判員(54)。誤審で完全試合が消滅した事件の当事者2人のことだ。

 前代未聞の騒ぎは6月2日、デトロイトで起こった。タイガースのガララーガは、インディアンス戦で完全試合達成まであと1人と迫っていた。九回2死。27人目の打者であるジェーソン・ドナルドの打ったゴロは一、二塁間に転がった。一塁手のミゲル・カブレラが追い付き、一塁ベースカバーに入ったガララーガに送球。しっかり捕球してベースも踏んでいる。誰もが完全試合達成と思った。ところが、ジョイス審判はセーフのジェスチャー。どう見てもアウトにしか見えないプレーがセーフと判定され、完全試合は最後の最後に無残にも消滅してしまった。

 試合後、ジョイス審判は泣きながらガララーガに謝罪した。AFP電によると、ガララーガはそのときの様子をこう語っている。
 「試合後に謝りにくる審判なんて見たことないよ。彼は本当にすまなそうだった。『分かってもらえないかもしれないけれど、本当に申し訳なく思っている』って。僕は何を言えばよいか分からなかった。だから彼を2、3度抱きしめて、『完全な人間なんていない』と言ったんだ」

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