会員限定記事会員限定記事

コラム:絶対、負けられぬ戦い
 スポーツ千夜一夜

武藤英紀

 自動車レースのインディカー・シリーズに参戦している武藤英紀選手にこんな話を聞いた。「時速300キロには慣れたけど、350キロだと世界が変わる。いけないところに来てしまった気がする」
 武藤選手は同シリーズに日本人でただ一人フル参戦している26歳。生家は築地の鮮魚卸問屋という江戸っ子で、威勢のよさとシャイな気質が同居する好漢だ。モータースポーツの最高峰で活躍するプロドライバーが、制御不能になる直前の身もだえしそうな感覚をちょっぴり照れながら「いけないところ」と表現した。爽快感と恐れがない交ぜになった、余人には計り知れない境地なのだろう。
 インディ・シリーズは栃木県の「ツインリンクもてぎ」など、オーバル(だ円形)コースで開催されることが多く、平均時速はF1をしのぐ。見る者を圧倒する絶対的な速さは、同シリーズの大きな魅力のひとつだ。
 多くの人々が「速さ」にあこがれる。先の世界陸上選手権の男子100メートルで、ウサイン・ボルト選手が驚異的な世界記録9秒58をマークした。「とにかく一番速く走った者が勝ち」という単純明快なルールが観衆の熱狂をより増幅させる。

バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ