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コラム:藤川は外れ、イチローは残った
 スポーツ千夜一夜

決勝・韓国戦の九回のピンチでダルビッシュ(中央)を励ます日本代表選手。この緊迫した場面でも藤川は登板の機会がなかった(米・ロサンゼルス)2009年03月23日 【時事通信社】

 野球のWBCは日本代表の優勝で幕を閉じた。
 いい大会だった。
 2大会連続世界一という事実が何とも心地よい。
 日本が世界に誇れる競技、それは野球であるということを改めて満天下に示してくれた。
 それはいい。それはいいのだが…。

 藤川はどうした。大会を締めくくる決勝のマウンドに、当然いるべき男がいなかった。マウンドには前日に続いてダルビッシュ。藤川の調子が良くないと聞いてはいたが、あそこでは出てくると思っていた。阪神ファンならずとも、頭にクエスチョンマークがいくつも浮かんだはずだ。

 準決勝の米国戦。9回からダルビッシュが出てきたのを見て大学生の息子がたずねてきた。
 「なぜ藤川じゃないの」
 私は胸を張って答えた。
 「それはな、点差が5点もあるからや。藤川を出す必要ないから、明日にとっておいたんや。それくらい、もうわからなあかんで」

 翌日、1点差の緊迫した場面でまたダルビッシュが出てきたのを見て、息子がニヤニヤしながら聞いてきた。
 「あれ、話が違うなあ。なぜ藤川じゃ、な、い、の、か、な、っと」
しょうがないので、私は言った。
 「一足先に祝勝会の会場に行く、言うとったわ。肝を冷やす場面はダルビッシュに任せて、自分はシャンパン冷やしときますわ、ってな」
 親父の権威が、また落ちた。

 抑えが不慣れなはずのダルビッシュは、案の定、韓国に1点を失い、延長に持ち込まれた。ビビるな、という方が無理な場面。ブラウン管から、彼の胸の鼓動が伝わってくるようだった。数々の修羅場をくぐりぬけてきた藤川に任せれば、あるいはそのまま抑えたかもしれない。けれど、日本代表の首脳陣はそれをしなかった、いや、きっとできなかったのだろう。

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