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子どもを守るために~防犯のカギを探る~

断腸の思い

 新聞やテレビ、インターネットで、幼い子どもを狙った犯罪のニュースを見るたびに、「またか」とため息が出る。警察庁のまとめによると、2013年の1年間で、殺人事件の被害者となった小学生以下の子どもの数は68人。その他の刑法犯でも、略取・誘拐が90人、強制わいせつが1022人にも及んでいる。

 福岡県飯塚市で1992年、小学1年の女児2人がそろって登校中に行方不明となり、同県甘木市の山中で遺体となって発見される事件が発生した。いわゆる「飯塚事件」。筆者は99年、裁判取材の応援で、福岡地裁で開かれた同事件の一審の判決公判を傍聴したのだが、そのときのことが約15年経った今でも忘れられない。

 2人を車に乗せて誘拐し、首を絞めて殺害した男=2006年最高裁判決により死刑が確定、08年執行=は、捜査段階から一貫して無罪を主張していた。そのため、遺体や車に付着した血液の鑑定結果に対する評価が争点となり、公判では、女児の目撃証言、時に耳を覆いたくなるような遺体の状況などが子細に示された。何十ページにわたる判決文が読み上げられるのを聞きながら、いつもの通り起床して朝食を取り、いつもの通り赤いランドセルを背負って学校へと出かけた幼い2人の姿が目に浮かび、突然、凶行に巻き込まれた恐怖を想像した。「何ら落ち度の無い2名ものかけがえのない無垢な命を奪った鬼畜同様の行為」と判決も断じていたが、誰が犯したにせよ、これほど憎むべき罪はないと思った。涙が出て止まらなかったのを思い出す。

 「断腸の思い」という言葉があるが、中国の古典が語源で、子を捕らえられた母猿の逸話が基になっている。母猿は、子を追って百里の道のりを走ったが、追いついたときには、はらわたがずたずたにちぎれていたというものだ。子どもを標的とした事件が相次いでいる現在の日本。どれだけ多くの家族が断腸の思いに沈んだか。悲劇を繰り返さないために、防犯対策の強化充実は、保護者自身、そして地域、自治体、国の大きな課題である。

 実際、子どもの周囲には、多くの危険が潜む。自治体がホームページに掲載している「不審者情報」を少し見ただけで、「児童が通行中、男に体を触られた」「児童が公園内で遊んでいたところ、『おじさんは怖い人だよ』と声を掛けられた」「児童が店舗内で通行中、20代くらいの男がつきまとわり、声を掛けてきた」と、子どもに対する「声掛け」や「つきまとい」の多さが分かる。必ずしもすべてが事件につながるというわけではないだろうが、警戒は必要だ。

 では、どのように危険に備えればいいか。近年は、位置情報の活用により、パソコンや携帯電話、タブレット端末で、人の居場所をかなり正確に把握できるようになっている。防犯機能付きの携帯電話などを持たせるのも、選択肢の一つだろう。

 一方、地域では、民間の協力で、危険に遭遇した子どもを保護する「子ども110番の家」などの取り組みが全国的に定着。「子どもを犯罪被害から守る条例」を、新たに制定する自治体も出始めている。子どもの安全確保に向け、地域で進められている取り組みや、現在用いられている機器などを見ながら、防犯のカギを探った。(時事ドットコム編集部・沼野容子)

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